●開始間もない修正と均衡を破るメッシ

FIFAワールドカップカタール2022ラウンド16、アルゼンチン代表対オーストラリア代表が現地時間3日に行われ、2-1でアルゼンチン代表が勝利した。オーストラリア代表はアグレッシブな戦いで立ち向かったが、アルゼンチン代表は柔軟な戦術変更とハードワークで応戦していた。(文:西部謙司)
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 4-4-2の守備ブロックで構えるオーストラリア代表に対し、アルゼンチン代表は4-3-3だったが、まもなくパプ・ゴメスを左ウイングから右サイドハーフへ移して4-4-2に変える。リオネル・メッシとフリアン・アルバレスの2トップとなった。

 その間、試合は膠着したままで何も起きていない。20分すぎにオーストラリア代表が攻め込む時間帯もあったが、アルゼンチン代表のボール保持率は65%前後で推移している。どちらも決定機はない。その膠着状態が破れたのは35分、メッシの先制点が唐突に決まる。

 アルゼンチン代表の右サイドのFKをオーストラリア代表がクリアしたが、FKを蹴ったメッシの足下へボールが戻ってきた。メッシはペナルティーエリア外にいたロドリゴ・デ・パウルの足下へ速いパスを預けるとボックスの中へ。デ・パウルはボックス内でフリーになっていたニコラス・オタメンディの足下へパス。

 すると、オタメンディのすぐ側にメッシが来ていた。オタメンディはワンタッチでメッシに渡す。殺到するDFを前に、メッシは落ち着き払って左足のインサイドキックでシュート、これがDFの足の間を抜けてゴールインとなった。

●アルゼンチン代表、2つ目の対応

 メッシが股抜きのシュートを狙っていたかどうかはわからないが、チャンスにペナルティーエリアへ入って行ったこと、ゴールポストを狙ってシュートしたことが得点になった要因だと思う。

 ファーサイドのポストを狙っての低いシュートはGKにとって防ぎにくい。DFはブロックに入っているが、そのときは足の間をボールが通ることはよくある。おそらくそこを抜けると感覚的にわかっているのだろう。抜ければGKは反応が遅れる。隅へ蹴れば入る。まずはコースを丁寧に狙う習慣がゴールにつながったのではないか。

 リードされたオーストラリア代表は後半から前進してプレスを仕掛けていく。この変化に対して、またもアルゼンチン代表も変化で対応した。

 5分を経過したところでゴメスをリサンドロ・マルティネスに代え、システムを3-5-2に修正した。ポイントは2カ所にフリーマンを作ること。

 オーストラリア代表の2トップに対して3バックなので、ここで1人がフリーになる。キープ力とフィードに優れたリサンドロ・マルティネスが入ってことでディフェンスラインのところで落ち着いた展開が期待できる。もう1カ所はアンカーポジションになったエンソ・フェルナンデス。対面の選手がいないのでフリーになりやすい。

 オーストラリア代表が前がかりにプレスしてきても、この2カ所のフリーマンを経由すればプレスを空転させられるという狙いである。守備では相手のSBがマッチアップのうえでフリーになるが、こちらもフェルナンデスとDFの1人が余るのでボール方向へスライドすれば対応しやすい。

●イメージどおりの戦い方

 攻守にオーストラリア代表の勢いを削いだ後、GKマシュー・ライアンへのハイプレスから追加点を奪った。

 ライアンの左サイドへのパスに対して、デ・パウルが猛烈に寄せる。さらにGKへのバックパスにもそのまま寄せていった。GKライアンは辛うじてデ・パウルをドリブルでかわしたが、そこを狙っていたアルバレスがボールを奪って無人のゴールへ決めた。ラウタロ・マルティネスからポジションを奪ったアルバレスはこの試合でも運動量が凄い。

 フリーになるフェルナンデスを経由させるパスワークでリズムをつかんだアルゼンチン代表はメッシの単独ドリブル、マルコス・アクーニャの際どいクロスで3点目を取りに行く。

 オーストラリア代表は3人交代から反撃に転じて77分にこぼれ球をクレイグ・グッドウィンがシュートして1点を返す。さらにアジス・ベヒッチが次々とDFをかわしてシュートするがリサンドロ・マルティネスがブロック。

 終盤はメッシのオンステージ。ドリブルで3人引きつけてラウタロ・マルティネスへラストパス、自ら突入してシュートと立て続けに4つの決定機を作った。オーストラリア代表も最後まで諦めず、ハイクロスからガラン・クオルがシュートするがGKエミリアーノ・マルティネスがファインセーブで得点ならず。

 アルゼンチン代表はフィールドプレーヤー10人のハードワークとGKの活躍、そしてただ1人体力をセーブしながら決定的な仕事をするメッシという彼らのイメージどおりの戦い方で勝利。準々決勝へ進んだ。

(文:西部謙司)

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