FIFAワールドカップカタール2022はベスト16が開戦し、優勝候補のオランダ代表とアルゼンチン代表が順当にベスト8へコマを進めた。ここからさらに戦いは過熱していくだろうが、その前に波乱尽くめだったグループステージの48試合を振り返ろう。
■6大陸が16強へ
今大会は、92年の歴史を誇るW杯において初めて「6大陸」のチームが決勝トーナメントに名を連ねることになった。ヨーロッパが8チーム、南米が2チーム、アジアが2チーム、アフリカが2チーム、北米が1チーム、オセアニアが1チーム。いつになく実力が拮抗した大会と言えるだろう。
とはいえ、ベスト16でアルゼンチン代表の前に屈したオーストラリア代表も、オセアニア勢と言いながら実際はAFC(アジアサッカー連盟)に加盟している。そのため今大会はAFC勢が3チームも決勝トーナメントに名を連ねたことになる。これは2002年の日韓大会と2010年南アフリカ大会の2チームを超えて、過去最多となっている。
やはりアジア開催ではアジア勢に風が吹いたようで、出場したAFC勢6チームのうち、勝ち点を稼げなかったのは開催国のカタール代表だけ。日本代表、韓国代表、オーストラリア代表の3チームがグループステージを突破し、AFC勢は計18試合で「7勝1分10敗」という成績だった。1チーム平均で3.67ポイントを稼いだ計算になり、これは1998年に32チーム制になって以降で過去最高の成績だという。
■アフリカ勢の躍進にも注目
アフリカ勢も負けていなかった。アフリカ王者のセネガル代表と、タレント揃いのモロッコ代表が見事にグループステージを突破した。アフリカ勢が2チームも16強に進出するのは2014年ブラジル大会(ナイジェリア代表、アルジェリア代表)と並び歴代最多タイ。
「アフリカ勢もいつか優勝できる。それがセネガルであることを願っている」とセネガル代表のアリウ・シセ監督が期待を込めれば、モロッコ代表のワリド・レグラギ監督もグループ突破を決めたあとに「優勝できますか?」と意地悪な質問を受け、「なぜ優勝を目指してはいけないんだい? 我々アフリカ勢も高い目標を持つべきだ。天高く目指そうじゃないか」と語っている。
まずは、アフリカ勢が一度も越えられていないベスト8の壁を越えることだ。果たして史上初のベスト4進出となるか、アフリカ勢の躍進にも注目したい。
■波乱、そしてまた波乱
「常に強豪国が格下と言われるチームを倒していた、30~35年前のワールドカップとは違うんだ」とセネガル代表の指揮官が力説したように、今大会は番狂わせが目立っている。C組では、出場国で2番目にFIFAランクの低いサウジアラビア代表(51位)が、グループ初戦でFIFAランク3位のアルゼンチン代表を撃破して話題になった。
日本代表も、いわゆるサッカー大国と呼ばれるドイツ代表とスペイン代表に見事な逆転勝利を収めてサッカー界を賑わせた。そしてモロッコ代表がFIFAランク2位のベルギー代表を退ければ、カメルーン代表に至ってはFIFAランク1位のサッカー王国ブラジル代表に勝利した。米データ会社『Gracenote』によると、今大会は最も“波乱”が多い大会だという。
同社の独自の勝敗確率によると、今大会のグループステージでは勝率が33.3パーセント未満とされる“サプライズ”が12回も起きたという。もちろん、日本代表の2勝もそこに含まれる。このサプライズが12回というのは、32チーム制になった1998年から数えてグループステージにおける最多記録だというのだ。
日本代表が初出場で3戦全敗に終わった1998年大会はグループステージでサプライズが6回しか起こらなかった。そう考えると、24年間で各国の実力差が大幅に縮まったのかもしれない。
ちなみに、今大会で勝率16.7%未満の“ショック”と呼ばれる結果は2試合。それがサウジアラビア代表 2-1 アルゼンチン代表(勝率8.7パーセント)とカメルーン代表 1-0 ブラジル代表(勝率5.9パーセント)だったという。
■それでも役者は活躍
欧州最高のストライカーと呼ばれるポーランド代表FWロベルト・レヴァンドフスキ(34歳)は、2度目のW杯にしてようやくネットを揺らした。第2戦のサウジアラビア代表戦でゴールネットを揺らすと目頭を熱くさせ、「年を取ると、感傷的になりやすいのさ。これが僕の最後のワールドカップになるかもしれない。ずっとずっとワールドカップでゴールを決めたかった。その夢が叶ったのさ」と試合後に思いを明かした。
アルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(35歳)は、史上4人目となる5大会でピッチに立つと、しっかりとゴールを奪ってチームを決勝トーナメントに導いた。とりわけ第2戦のメキシコ代表戦では64分に先制弾をマーク。それまで堅守を見せていた相手の牙城を崩した。この試合についてサウジアラビア代表のエルヴェ・ルナール監督は「60分間、メキシコは善戦していたが、そこにメッシが現れた。メキシコの敗因はメッシだ」と批評した。
ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド(37歳)も、起用法について賛否あるとはいえ、史上5人目の5大会出場を果たすと、ガーナ代表戦でPKを沈めてW杯5大会で得点という史上初の快挙を成し遂げた。
■若い力も躍動
ベテランのスーパースターだけでなく、若い才能も躍動している。メキシコ代表が44年ぶりにグループステージで姿を消すなかで、北中米カリブ海で唯一、ベスト16に進んだのが若いアメリカ代表だった。今大会最年少のキャプテン、タイラー・アダムズ(23歳)を筆頭に、MFユヌス・ムサ(19歳)、DFセルジーニョ・デスト(22歳)、FWジョシュ・サージェント(22歳)、FWティモシー・ウェア(22歳)など若いタレントが主力にずらり。24歳のFWクリスティアン・プリシッチがベテランに感じてしまうほどだ。
そのアメリカ代表は、グループステージ第3戦のイラン代表戦で今大会最年少となる平均24歳321日のスタメンを組んで見事に勝利を収めて決勝トーナメント進出を果たした。ベスト16でオランダ代表の前に涙を呑むことになったが、共催国として既に出場が決まっている次回の2026年大会で更なる躍進が期待される。
その他にも、スペイン代表ではガビ(18歳110日)がコスタリカ戦でネットを揺らし、元ブラジル代表ペレ氏(17歳249日)、元メキシコ代表アヌエル・ロサス氏(18歳90日)に次いでW杯史上3番目に若いゴールスコアラーとなった。
オランダ代表では、23歳のFWコーディ・ガクポが同代表における史上4人目のワールドカップ3試合連続ゴールを達成した。イングランド代表でもジュード・ベリンガム(19歳)、ブカヨ・サカ(21歳)、フィル・フォーデン(22歳)といった若い力が躍動している。
■パスは多くてもシュートが少ない大会
今大会の特徴は「パスを回してシュートを打たない」というものだ。イギリスメディア『スカイスポーツ』によると、1試合平均のパス成功数は32チーム合わせて「794本」で、2002年大会以降で最多となっている。2002年大会(612本)に比べると1.3倍に増えているのだ。一方で、1試合平均のシュート数は32チーム合わせて「22.3本」に留まった。これは2002年大会以降で最少で、2006年大会(29.4本)に比べると「7本」も減っているのだ。とはいえ、ゴール数は1試合平均「2.5ゴール」で、これは過去の大会と比べても平均的だという。
ちなみに、スペイン代表は7-0で大勝したコスタリカ代表戦でW杯史上初となる1000本越え(1003本)のパス成功数を記録した。そしてグループステージ第3戦の日本代表戦でも992本のパスを成功させたが、結果はご存知の通りだった!
(記事/Footmedia)