【識者コラム】すでに次期監督報道、W杯後に監督を続けた人は1人もいない

 スペインに勝利してグループリーグ首位通過が決まったと思ったら、もう次期監督の話が報道されていた。

「いろんな名前が挙っているが、(森保一監督は)間違いなく候補の1人。勝つことが第一で、ぶれがないから選手が付いてくる。今の日本の選手で世界と十分に戦えることを示してくれた」(日本サッカー協会・田嶋幸三会長)

 この会長のコメントを読む限り、森保監督がワールドカップ(W杯)後も引き続き指揮を執るものと思うかもしれないが、そうとも言えない感じもする。

 このコメントから判断できることは少ないが、いくつか気になる発言があるのであえて深読みしてみようと思う。

 まず、「いろんな名前が挙っているが」の部分。新聞報道でマルセロ・ビエルサやヨアヒム・レーブなどが次期監督候補として名前が出ていることを受けての発言だろう。実際に交渉しているのかどうかはともかく、W杯後に監督を代えるとしたら、もう動いていても不思議ではない。そして、スペイン戦の勝利をうけて「間違いなく候補の1人」と言っているが、この「候補の1人」という言い方は、まだ「候補」にすぎないと読み取ることもできる。

 日本サッカー協会(JFA)は前回大会の時も西野朗監督を候補の1人としていた。1998年のW杯初参加で岡田武史監督の時も次期監督候補と言っていたと記憶している。W杯で指揮を執った監督に対しては、引き続き監督をやってもらう可能性もあると示唆するのがどうやら慣例になっているようなのだ。しかし、W杯後に監督を続けた人は今のところ1人もいない。

 次期監督として複数の名前が挙っていて、そのこと自体を否定していない。森保監督もその中の1人と話しているが過去に続けた人はいない。そうすると、この会長コメントから「森保続投」とは判断しにくく、むしろ代わる可能性も相当あるではないかと。

気になる「今の日本の選手で」発言 重要なのは4年後のW杯を率いるのにどうか

 さらに気になるのが「今の日本の選手で世界と十分に戦えることを示してくれた」という発言だ。

 田嶋会長は「今の日本の選手で」と言っている。現在の戦力を率いての手腕を高く評価しているわけだが、次期監督が率いるのは今の選手とは限らない。選手が違えば監督のアプローチも違ってくるわけで、次期監督の選考で重要なのは4年後のW杯を率いるのにどうかだ。

 森保監督は現在の代表で「世界と十分戦えることを示してくれた」。ただ、ドイツとスペインに圧勝したわけではない。中堅国らしい戦い方で勝っている。中堅国は基本的にずっと中堅国だ。中堅から強豪にステップアップした例外としてはスペイン、フランスが挙げられるが、一時的にW杯で好成績を残しても、大半の中堅国は中堅のままで強豪にはならない。JFAが本気で日本を強豪国へステップアップさせたいなら、中堅らしい現在の戦い方からもステップアップしなければならない。

 過去にジーコ監督とアルベルト・ザッケローニ監督が強豪のようなプレースタイルを志向していたが、いずれもグループリーグで敗退している。逆に身の丈を弁えたときはベスト16。実力が伴っていないまま中堅からの脱却をしようとすると必ず痛い目に遭ってきた。いつかは中堅からの脱却を図りたいが、それがいつなのか。

 まだ中堅国としての戦いを続けるべきか、それとも強豪国へ踏み出していくのか。次期監督はそれ次第なのではないか。森保監督は「候補の1人」かもしれないが最有力とは限らない。JFAの考え方次第だが、それがこの発言からは分からないのでなんとも言えないところである。(西部謙司 / Kenji Nishibe)