日本代表は、カタール・ワールドカップのラウンド16でクロアチア代表と対戦し、1-1で突入したPK戦の末に敗れました。
日本は前半を無失点で抑え、先制点も取れて、後半の交代選手もプラン通りに進んだと思います。
前半は、かなりクロアチアが支配する展開が続きましたが、徐々にボールを奪えるようになって、即時奪回ができるようになった。そこから生まれたセットプレーからゴールが生まれました。今まで見せてこなかったデザインされたやり方で、自分たちで策を練って得点を奪ったのは良かったですね。
ミドルシュートを狙う場面もあって、クロスは相手DFが強くて大きいなかで、GKとの間に低くて速いボールを入れるなど、攻め方の工夫はすごく感じられました。
PK戦では、先行で先に点を取れば相手にもプレッシャーがかかるなかで、最初にそれができなかったのは大きな点だったと思いますが、見ている限り、相手のGKも上手くて、当たっていました。選手たちも悪くないコースに蹴っていましたが、それを反応してキッチリ止めるのはさすがだなと思います。
日本がしっかりと準備して、狙い通りに戦えた一方で、クロアチアの良さもよく分かりました。
後半に投入された三笘薫選手のドリブルをはじめ、日本の良さを消す。クロアチアはクロアチアでしっかりと日本対策をしていると感じました。
また、20番のグバルディオル選手が強烈でしたね。強さもあるし、スピードもある。彼が危ないところをひとりで守っているような存在感があった。日本の交代カードの浅野拓磨選手の良さを消していました。前線で起点を作らせてもらえなかったのは、後半に追加点が奪えなかったひとつの理由だと思います。
日本としては、ああいう選手を今後どう突破していくのか。やはり、ストライカーの必要性を感じました。
日本のFWは、前線からの守備は非常に良い形でできていたと思います。しかし、そのなかでもどうやって得点を奪うのか。もちろんチーム力はすごく大事で、今大会で日本の団結力やハードワークができるところは改めて評価されるべき部分だと思いますが、その後にどうやって個で突破できるかが、より高みを目ざすうえでは必要ではないでしょうか。
例えば、今大会で三笘選手があれだけ通用していたのも大きな収穫ですし、多くの選手たちも通用していた部分があったと思います。そのうえで、よりスペシャリティを発揮して、試合を決め切る個の力が欲しいですね。グバルディオル選手のような個が相手に与えるダメージは大きいですから。
やはりクロアチアは勝負強かったですね。前回大会でも延長戦をくりかえしての準優勝。豊富な経験を持っていて、そこに強烈な若手が加わる。そうやって歴史を作ってきていると感じます。試合巧者というか、日本が攻めているようで、攻め切れていない。日本がクロアチアに本当にダメージを与えるような攻撃ができたかと言うと、それほど数は多くなかったのではないでしょうか。
さらに、延長に入ってモドリッチ選手やコバチッチ選手、ペリシッチ選手などを交代しました。PK戦も考えるなかで、経験豊富な中心選手を交代するのはなかなかの決断です。これまでもトーナメントを勝ち上がってきた経験や歴史を感じました。
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クロアチアはドイツ、スペインほど個人の力があるかと言うと、それほどでもないのかもしれませんが、本当に粘り強く、チームとしてしっかりとプレーできる選手が多かった。グループステージでも2試合、クリーンシートがあり、最後の最後ではやらせない強さを感じました。
もちろん、日本の良さも否定する必要はありません。今大会でこれだけ奮闘できたのは、森保監督の言っている犠牲心などがあったから。それはどのチームにもできるものではないですから。
16強の壁は超えられませんでしたが、グループステージでワールドカップの優勝経験を持つドイツ、スペインを倒しているわけで、今回もベスト16の壁を越えられなかった、ではなく、内容は間違いなく変わってきていると思います。
スペイン戦の田中碧選手の決勝弾につながる三笘薫選手のアシストなど、本当に1ミリの差で勝敗が分かれる。最後まで諦めないことが大切なんだと改めて気づかせてくれました。
ワールドカップという舞台で、ドイツ、スペインと真剣勝負ができた。一発勝負のトーナメントでクロアチアと対戦できた。それは日本サッカーにとってもものすごく大きな財産になるでしょう。
誰もが、ドイツ、スペインに逆転勝ちをするとは思っていなかったでしょうし、逆にその2か国に勝ってコスタリカに負けるというのも想像していなかったはずです。
国の特色や、対戦相手との相性のようなものもあります。自分たちがボールを支配できた試合で勝てたわけではないですし、支配率が低かった試合で勝つのもサッカーだと思います。そんなサッカーとは? を考えさせられ、サッカーの奥深さや魅力が感じ取れた大会でした。
次にその財産をどうつなげていくのかは、今回ピッチに立った選手たちだけでなく、この試合を見ていた若い選手たちがどう感じたのかが大事なんだと思います。
どこまでプレーするのか。走り切るのがなんで大切なのか。そのあたりは、子どもたちが諦めの早い部分でもあります。指導者として、もちろんその重要性は伝えてはいますが、実際、ワールドカップでやり切ることが勝敗を分けたのは、すごく説得力がありますよね。
最後までプレーをやめない姿勢。今大会でサッカーをやるうえで大切にしなければいけないものを学べたと思います。最少失点でも耐えていれば、チャンスは来るし、チャンスを決め切れれば、優勝経験を持つような強豪も倒せる。
さらにそういうプレーは、見る人の心をアツくするし、応援したくなる。
グループステージを1位で突破し、あと一歩のところでベスト8に進めそうだった。その戦いぶりは、サッカーをやっている子どもたちにも勇気を与えたと思いますし、それでも越えられなかった壁を、次の世代が打ち破ってほしいですね。
【著者プロフィール】
市川大祐(いちかわ・だいすけ)/1980年5月14日、静岡県出身。現役時代は日本代表の右サイドバックとして活躍したクロスの名手。1998年に17歳でA代表デビューすると、2002年の日韓W杯でも活躍。アカデミー時代から過ごした清水ではクラブ歴代3位となる325試合に出場した。2016年に現役引退後は指導者の道に進み、清水エスパルスジュニアユース三島U-13監督として活躍。さらに、2023シーズンよりトップチームのコーチに就任する。