日本対クロアチア戦、私はVIP席で見ていたのだが、気が付けば周りにいる裕福そうなカタール人はみな日本を応援していた。おそらく、スタンドの8割強の人が日本を応援していたと思う。その光景は印象的だった。思わず声援を送らずにはいられない、日本はそんなチームだった。

 ここまでプレーした4戦全てで、勝敗にかかわらず日本は試合の主役だった。初戦では、これまでワールドカップで4度の優勝を誇るドイツを破り、世界を驚かせた。2戦目、誰もが期待していたのにもかかわらず、コスタリカに負けてこれまた皆を驚かせ、3戦目には、それまでの全出場国の中で一番良いプレーをしていたスペインを破って喝采を浴びた。そしてクロアチア戦だ。

 この試合、日本はクロアチアより完璧に上回っていた。それまでの3試合ではすべて前半のパフォーマンスが悪かったが、その課題を乗り越え、立ち上がりから果敢なプレーを見せた。
 
 ボールを持ち、試合を支配し、スピードを駆使し、ゴールを脅かすのは常に日本だった。そんな中で生まれた前田(大然)のゴールは、プレーの組み立てと戦術の賜物で、まさに考えぬかれた得点だった。そして何より決して力を出し惜しみしない全力なプレー。これには多くの人が感動しただろう。

 一方、クロアチアは(ルカ)モドリッチもどこにいるかわからない。チームとして何がしたいのかわからない。ぼやけたプレーしか見られなかった。

 だが、後半になると、日本のパフォーマンスの質は次第に落ちてくる。延長戦になると、スピードと闘志という日本の良さが消えていく。どんどん調子が上がっていった今までの試合とは真逆だ。私はそれを「恐れ」から来るものではないかと思った。

 前半に先制したことで、日本はこの先にある未知の地、ベスト8に大きく近づいた。そのため、後半は立ち上がりから失点を恐れてDFを残し、思いきりが悪くなる。55分に同点に追い付かれ後も逆転を恐れ、ますます良さが消えていった。

 そして、「恐れ」が最も顕著に出たのがPK戦だった。メンタルをコントロールできず、4人中3人が失敗してしまう。

 PKは技術的に言うならば、言うまでもなく一番点を取るのが簡単な方法だ。データから言うとGKが止める確率は12%。ただキッカーが恐怖心を抱いてしまうと、その確率は一気に高くなってしまう。日本はまさにその状況に陥ってしまった。悪いが彼ら蹴ったボールはシュートというよりもGKへのパスに近かった。GKの裏をかくようなキックはなく、あまりにも素直に蹴ってしまった。
 
 クロアチアは日本が勝ったドイツやスペインよりずっと弱かったし、プレーを見る限りはラウンド16の中で一番弱い部類だった。モロッコやスイス、韓国よりもだ。試合後、クロアチアの中には、延長に入った時に家に帰る覚悟をしていたという選手もいた。日本はクロアチアに負けたのではない。自分たちに負けたのだ。

 これを経験不足などという言葉などで片付けてはいけない。日本は決して経験がないわけではない。W杯はすでに7回目、うちグループステージを突破したのは4度目だ。多くの選手はヨーロッパでプレーし、強豪を相手に戦い勝っている。勝ち方を知らない選手たちではないはずだ。

 いま日本に一番大事なのはメンタルのコントロールだと思う。W杯の大舞台、自分のPKで新たな歴史に踏み出せるかどうかが決まる。そのプレッシャーは我々には想像もできない。鋼の精神力がいる。重要な場面で感情をうまくコントロールする術を手に入れれば、きっと新たな高みに行けるはずである。
 
 日本はカタールを去った。ここまで戦い抜き、世界中を感動させたことは皆忘れないだろう。私のそばに座っていたカタール人の2人の少年は、親に連れてこられたのか始めは試合に興味なさそうだった。それが最後の頃には「ニッポン、ニッポン」と夢中で叫んでいた。日本はこの日、少なくとも新たな2人のサッカーファンを作り出した。

 W杯はただビッグネームを見るためのものではない。日本はサッカーというスポーツの本来の面白さを改めて世界に教えてくれた。ありがとう日本。誰もがもっともっとこの日本を見ていたかった。

 最後に一言。ブラジル人としては、サッカーの縁の深いブラジルと日本がW杯の大舞台で戦うのをぜひ見てみたかった。それが残念でならない。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

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