驚きの番狂わせが相次ぐ今ワールドカップ。

ベルギーとスペインを沈めたモロッコ代表も下剋上を成し遂げたチームのひとつ。

そのモロッコの主力のひとりがハキム・ジヤシュ。彼はチェルシーに所属する天才肌のレフティだ。今大会ではカナダ戦で見事なゴールを決めている(動画42秒から)。

彼はヴァヒド・ハリルホジッチ監督との関係が崩壊したことで一時は代表引退を宣言したが、同監督の解任を受けて今年9月にチームに復帰した。

オランダ生まれでユース世代ではオランダ代表だったが、21歳だった2015年にモロッコ代表に鞍替えしている。

CNNにも寄稿するハレド・ベウドゥン氏によれば、ジヤシュは代表デビュー以降、代表戦での報酬を一銭たりとも受け取ったことがないという。その全てをモロッコのチームスタッフや貧しい家庭に寄付しているそう。

また、『Al Jazeera』では、その壮絶な生い立ちを伝えている。

彼はモロッコからオランダに移住した両親のもと9人兄弟の末っ子として生まれた。家庭は貧しかったが、ジヤシュが10歳だった2003年には父親が多発性硬化症で死去。

母親は家族手当や失業手当で一家を支えるために奮闘したが、兄弟2人が窃盗と暴行で服役するはめに。

ジヤシュは一家の希望の星だったが、彼も父の死で精神的に荒んでしまう。勉学で躓くと、12歳でサッカーも止めてしまい、ドラッグやアルコールにおぼれて、人生は破滅寸前に陥る。

だが、当時のコーチのおかげで、薬物中毒から抜け出すことができた。出所した兄も父親代わりになり、サッカーを再開するよう彼にアドバイス。

それでサッカー選手を再び目指すようになるも、その後、薬物やアルコールなどに再び手を出して問題児に逆戻り。2010年時点では6件もの裁判沙汰を抱えるようになっていたが、そこでも元コーチにおかげで復活。

2016年に名門アヤックスと1100万ユーロ(15億円)の契約を結び、家族を貧困から救い出すことができた。

そんなジヤシュは母親に感謝しており、「本物のヒーローは自分ではなく母。彼女は自分にとって全て。母がいなければ、いまの自分はない」と話している。

ポルトガルとの準々決勝では、モロッコの7番に注目だ。

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ちなみに、彼は日本語での表記に揺らぎがあるが、本人の名前発音がこちら。

ツィエクではなく、「ジヤシュ」である。