【識者コラム】来シーズンに向けたJ1リーグの移籍動向に焦点

 カタール・ワールドカップ(W杯)はベスト4が出揃い佳境を迎える一方、Jリーグの各クラブは来シーズンに向けた強化が着々と進行。移籍報道が徐々に活発になってきているなか、ここではJ1リーグの移籍動向にスポットを当て、ここまでの注目すべき7つの移籍を紹介する。

■DF昌子 源(ガンバ大阪→鹿島アントラーズ)

 欧州から復帰のDF植田直通(←ニーム・オリンピック)とともに、3シーズンぶりに戻ってきた。“常勝軍団”と呼ばれた鹿島だが、ACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)を制した2018年を最後にタイトルから見放されている。要因はさまざまあるように思うが、やはり“勝者のメンタリティー”を持ったリーダーが少なく、昨年もFW鈴木優磨に一身を背負わせていた側面はある。その意味では精神的な意味で昌子の復帰は非常に大きいが、最終ラインの主力としてチームを支えてこそ意味がある。岩政大樹監督がゲームの主導権を握るサッカーを目指すなかで、タイトルを目指すチームのディフェンスリーダーにふさわしいパフォーマンスが出せるか注目したい。

■FW仲川輝人(横浜F・マリノス→FC東京)

 横浜FMで2度のリーグタイトルに貢献したアタッカーが、新たな環境で挑戦する。昨シーズンは怪我とコンディションに苦しみながら、好調時は相手の脅威になっていた。2年目の指揮となるアルベル・プッチ・オルトネダ監督はさらにポゼッションをベースに相手を圧倒していく攻撃を打ち出すと見られるなかで、仲川の加入は非常に大きい。左右のサイドでプレーできる特性もある。パスワークの質を高めながら、機を見た仕掛けでも違いを生み出せるアタッカーが、ワイドから支配力と得点力をアップさせられるか。

■DF大南拓磨(柏レイソル→川崎フロンターレ)

 圧倒的なスピードを武器に、センターバックと右サイドバックの両ポジションをハイレベルにこなす。DF谷口彰悟の海外移籍を見越した補強とも見られているが、本質的にタイプは違う。右サイドであれば相手のアタッカーを1対1で止めながら、鋭い攻め上がりからクロスに持ち込む。同じポジションのDF山根視来ともタイプは違うが、武器をそのまま新天地で生かすのか。それともハイクオリティーを求められる川崎の環境で、リニューアルを図るのか。昨年はE-1選手権でA代表にも招集されており、さらなる飛躍に期待が懸かる。

■MF仙頭啓矢(名古屋グランパス→柏レイソル)

 積極補強が目を引く柏でも、特に効果が大きそうな補強だ。サガン鳥栖でも名古屋でも、与えられた環境で周囲とうまく絡みながら、特長である機動力と攻撃センスを発揮してきた。ネルシーニョ監督は持ち前の堅守速攻に加えて、ボールを動かして相手のディフェンスを崩す形からの得点アップも狙っていると考えられる。京都橘高校時代に2トップを組んだFW小屋松知哉と2列目で共演する可能性もあり、興味は尽きない。

もう一段階上のチームを目指す京都、前線の核として頼れる助っ人を補強

■MF紺野和也(FC東京→アビスパ福岡)

 長谷部茂利監督が契約更新し、堅守速攻のコンセプトは大きく変わらないことが考えられる。その意味でも個人で違いを生み出せる左利きのサイドアタッカーは貴重だ。左サイドなら縦に突破してのクロス、右サイドならカットインからのミドルシュートや左足クロスが武器になるが、インから飛び出すプレーなど、多様性のあるアタッカーになってきている。セットプレーのキッカーとしても優秀で、ターゲットマンの高さを強みにする福岡で、アシストが大幅に増える可能性も。

■MF小野瀬康介(ガンバ大阪→湘南ベルマーレ)

 G大阪では右サイドで攻守のハードワークが目立ったが、元々は高い得点力を誇るタレントであり、ある意味で“宝の持ち腐れ”な印象も否めなかった。3-5-2を基本システムに採用してきた湘南において、従来のポジションで考えれば右ウイングバックの候補と考えるのが妥当だ。しかし、G大阪ではコーチとして指導した山口智監督が、川崎フロンターレに移籍したFW瀬川祐輔の後釜として2トップの一角で起用する可能性も。オンでもオフでもゴール方向に矢印を引ける選手であり、湘南に足りなかったゴール前の迫力や鋭さを加える存在になれるかもしれない。

■FWパトリック(ガンバ大阪→京都サンガF.C.)

 J1参入プレーオフで残留を勝ち取った曺貴裁監督の京都は、もう一段階上のチームを目指すフェーズにある。エースだったFWピーター・ウタカが退団し、新たな前線の核として加わるのが豊富な経験を持つ大型ストライカーだ。ロングボールの競り合いには滅法強く、4-3-3のセンターフォワードとして格好のターゲットマンになる。もちろん求められるのはゴールだが、周りの選手にゴールをもたらす意味でも大きい。ただ、35歳という年齢が気掛かりなだけに、前線にさらなる補強があるかもしれない。(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)