2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■変質するW杯

 ワールドカップ・カタール大会の開幕日、11月20日に始まった後藤さんとの「リレーコラム」も今回で第25回。大会も、準決勝の最初の試合、アルゼンチン×クロアチアまで全64試合中の61試合が終わり、残りは今夜のフランス×モロッコと、3位決定戦、そして決勝戦だけとなった。「大詰め」を迎えた緊張感とともに、一抹の寂しさを感じる時期でもある。

 第1回で取り上げた「オフサイド半自動判定」は、どうやらうまく機能したようだ。VARが介入するケースでのオフサイドの「味方のプレーのタイミング」や「オフサイド・ライン引き」をAIで行うというこのシステムのおかげで、ゴールが決まった後、オフサイドかどうかで待たされることはほとんどなかった。 

 さらに、「空費された時間」を徹底してとったことで、「アディショナルタイム」が従来からは考えられないほど長くなった。7分間、8分間は当たり前で、結果として10分間を超すことも(Jリーグなら、1年に数度あるかないかだ)珍しくなかった。その結果、ファンはサッカーをしっかりと楽しめたのではないか。

 だが「オフサイド半自動判定」は非常に大きな費用がかかり、2018年から4年間で世界中に広まったVARほどには普及しないだろう。そしてまた、10分間クラスのアディショナルタイムが標準になったら、2時間の放送枠で収めなければならない日本のテレビなど悲鳴を上げるのではないか。いずれにしろ、ワールドカップをはじめとしたほんの一部の「頂点」のサッカーと世界の圧倒的な数のサッカーは格差が増す一方で、グラスルーツからワールドカップまでひとつであるはずのサッカーがどんどん変質の方向に進み始めているのは間違いない。

■アルゼンチンの原動力

 さて準決勝である。

 12月13日には、アルゼンチンが3-0でクロアチアを下し、6回目の決勝進出を決めた。クロアチアにボールをもたせ、奪って速攻をかけるというゲームプランが的中し、面白いようにカウンターからゴールが決まった。

 その3点目、ダメ押し点を生んだのがリオネル・メッシである。右タッチラインでスローインを受けると、ゴールラインまで進んで中央に送り、FWフリアン・アルバレスにパスを送った。アルバレスはゴールに送り込むだけだった。メッシはアルバレスに対するファウルで得たPKで先制点も決めており、この試合でも決定的な役割を果たした。

 メッシは1987年6月24日生まれ。もう35歳であることに驚く。そして気がつけば、2006年からなんと5回ものワールドカップに出場しているのである。2014年ブラジル大会では、メッシひとりの力でと言っても過言ではない活躍でアルゼンチンを決勝まで導いている。そして今大会も、どちらかと言えば「労働者」タイプの選手を並べたアルゼンチンに、「違い」を生んでいるのがメッシなのである。

 FCバルセロナ時代には、スペイン・リーグ10回、UEFAチャンピオンズリーグ4回、個人としても「バロンドール」7回と、欲しいものはすべて手に入れた観のあるメッシ。しかしワールドカップは手中にしていないのである。

 彼と同時代に世界をリードしてきたクリスティアーノ・ロナウド(37歳)も、レアル・マドリード時代にタイトルを取りまくり、「バロンドール」も7回受賞している。しかし彼にも、ワールドカップだけはなかった。そしてロナウドは、この大会ではポルトガル代表の先発を外され、準々決勝でモロッコに敗れて大会を去っている。

 ロナウドがかなえられなかった夢を、メッシはかなえることができるだろうか。決勝の相手は今夜決まるが、メッシの天才と周囲のハードワークがかみ合ってきたアルゼンチンだけに、そのチャンスはドイツに屈した2014年大会以上に大きいように思う。