2022年カタール・ワールドカップ(W杯)もいよいよ佳境。13日の準決勝第一試合では,アルゼンチンがクロアチアを3-0で撃破。盤石の強さでファイナル進出を決めた。5度目のW杯で初優勝を狙う35歳のエース、リオネル・メッシ(PSG)のゴール前の冷静さと傑出した決定力は年齢を重ねても衰えるどころか、逆に磨きがかかっている印象だ。 

【動画】三笘の1㎜、スペイン戦の奇跡のアシストを改めてチェック!

彼を筆頭に、W杯上位国には例外なく看板選手ががいる。今大会で言えば、フランスのキリアン・ムバッペ(PSG)、クロアチアのルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)、伏兵・モロッコのユセフ・エン=ネシリ(セビージャ)といった具合だ。モロッコの場合は攻撃より堅守が目立つが、日本は彼らほどの堅牢な守備と鋭いカウンターは持ち合わせていない。となれば、攻撃タレントを増やすことでしか、強豪国に肩を並べる術がないのが実情ではないか。

「今大会の日本の足りない部分と言えるのは、攻撃の個の力。違いを作れる選手が多くない。世界の強国と比べるとアタッカーの力量不足は事実。そういう選手をどんどん発掘できるシステム、個を育てる指導者が必要」と日本サッカー協会の反町康治技術委員長も改めて強調していた。

こうした中、ドイツやスペインを凌駕する打開力を示した三笘薫(ブライトン)は日本の希望と言っていい。森保一監督も「戦術・三笘」と公言していたが、後半から彼をジョーカーとして送り出すと、試合の流れが明らかに変わり、攻めに新たな活力と推進力がもたらされていた。

ドイツ戦の堂安律(フライブルク)の先制弾は三笘の巧みな突破とスルーパスが起点となったし、スペイン戦の堂安の1点目も前田大然(セルティック)と三笘のハイプレスがなかったら生まれていなかった。さらにスペイン戦の田中碧(デュッセルドルフ)の2点目は背番号9の諦めない気持ちがゴールライン上にボールを残し、それがアシストにつながった。まさに奇跡と言うしかないが、それを呼び起すだけのチャレンジ精神と献身的姿勢を三笘は前面に押し出した。彼を見るだけでワクワクしたという人は少なくなかったはずだ。

しかしながら、その三笘でも、ラウンド16で苦杯を喫した相手・クロアチアには徹底マークされ、消されてしまった。

「自分のミスも多かったですし、相手が2人来ていても行き切らないといけなかった。1対1のところはありましたけど、そこでも行けていなかった。やっぱり悔いが残りますし、そういう実力だと感じています」

延長戦でドリブル突破からの強引なシュートをGKドミニク・リヴァコビッチ(ディナモ・ザグレブ)に止められ、さらにPK戦を失敗したことも相まって、本人は報道陣の前で号泣し続けた。涙の意味を問われ「僕より強い気持ちを持っている人に対しての申し訳なさです」と神妙な面持ちでコメント。長年、代表で戦い続けてきた川島永嗣(ストラスブール)、長友佑都(FC東京)、吉田麻也(シャルケ)らベテラン勢に新しい景色を見せてあげられなかったことを心底、悔やんでいる様子だった。

だからこそ、辛い経験をムダにしてはいけない。4年後は三笘自身がチームをリードし、日本を勝たせられる看板アタッカーになること。三笘はそれを現実にするしかないのだ。

「W杯で活躍できる選手がいい選手だし、ベスト8に導ける選手。それを4年間、もう1回、目指そうと思っています」と彼も自らに言い聞かせるように語気を強めた。

これまでの三笘は堂安、冨安健洋(アーセナル)、板倉滉(ボルシアMG)ら他の東京五輪世代に比べてA代表デビューが遅かった分、どこか遠慮がちな部分が感じられた。が、そんな遠慮をしている場合ではないと今回、本人も改めて悟ったはず。貪欲に上を目指さなければ頂点に近づけないと痛感したからこそ、「自分が日本を勝たせる選手になる」と宣言したのだろう。

「世界のトッププレーヤーは1人で局面を打開して決め切る力を持っている。クラブチームと代表ではやるサッカーも違いますし、チャンスが少ない中、1回で決める、局面で剥がすという力がより必要になる。そこは自分でも意識してやってきたつもりでしたけど、最後のクオリティやそこに持って行く力は全然足りないと分かりました」

「日本が8強以上に行くには、個人のレベルアップしかない。個々が集まって、戦術は最後なので。1人1人がもっと驚異的になれば、そこから敵も崩れていく。1対1を強くして、フィジカル的に上げていくことが今の自分には必要だと思います」

筑波大学時代も成績優秀だったという彼の冷静な分析は的を得ている。幼馴染で川崎フロンターレの元チームメートである田中碧が「このレベルになると化け物しかいない」と語っていた通り、本当に三笘が化け物になってきてくれれば、日本代表は長年追い求め続けている境地に到達できるに違いない。

稀代のドリブラーには自らのストロングを磨き続けることに邁進してほしい。そして、4年後には2026年北中米W杯で歓喜の涙を流す姿を見せてもらいたいものである。


【文・元川悦子】

【写真】ギリギリラインに残っているように見える!三笘のアシストをほぼ真上から捉えた1枚