エムバペが世界No.1ストライカーであることを証明した。世界中が注目し、チームの期待を背負い、その中で奪った大会得点王に辿り着いた8得点。決勝では56年ぶり史上2人目のハットトリックを達成した。圧倒的スピード、とてつもない身体能力、研ぎ澄まされたテクニック、想像を絶する緊張感の中で奪ったPK、チームを救ったスーパーボレー…20日に24歳を迎える若き絶対的エース、エムバペの全得点にファンは毎回、大興奮だった。

【映像】エムバペの全8ゴール

決勝までに奪った5点ですでに実力は証明された

 フランス代表の若きエースストライカーは、初戦から期待通り圧巻のパフォーマンスを披露した。オーストラリア戦、2-1で迎えた68分、ボックス外の右からのクロスをヘディングすると、シュートは左ポストを叩きながらネットに吸い込まれた。ABEMAの実況が「今大会の主役はこの男か、キリアン・エムバペ!」と伝えたが、物語はここから始まった。

 グループステージ第2戦、デンマーク戦でファンの期待は確信に変わった。スコアレスで迎えた61分、左サイドを切り崩すと、ボックス内でテオ・エルナンデスとのワンツーを受けて先制弾をマーク。同点に追いつかれて迎えた86分、アントワーヌ・グリーズマンの右からのクロスをファーで、太ももで合わせて決勝点を奪ってみせた。

 決勝トーナメントに入っても勢いは止まらない。1回戦のポーランド戦では、1-0で迎えた74分にボックス内左でパスを受けると、きっちりと狙い澄ました強烈なシュートをゴール左隅へと突き刺した。さらに91分、再びボックス内左で受けると、ワントラップでボールを右に流して、次の瞬間、右足でゴール右上隅へ。2つのシュートはいずれも圧倒的なスピードとコースに突き刺さる、GKにとってはノーチャンスという驚異の一撃だった。

 この時点ですでに、エムバペが世界屈指のストライカーであることに誰も疑いはなかった。ゴールシーン以外にも、圧倒的なスピードで相手を引き剥がすドリブル、テクニック、身体能力を遺憾なく発揮し、優勝候補フランスをけん引するまさに主役級の働きだった。

 しかし、この男の真骨頂は、こんなものではなかった──。

史上2人目、56年ぶりに成し遂げた決勝でハットトリック

 大会前から、リオネル・メッシと5得点で並び、大会得点王の行方も注目される中で迎えた決勝戦は、フランスにとって苦しい戦いだった。メッシの1ゴールを含め、アルゼンチンに前半のうちに2点を先行され、70分にエムバペが打つまで、シュート0本という異例の事態。眠れる獅子はそれまで、封じ込められているようだった。しかし、覚醒した。

 80分にPKを獲得すると、キッカーはもちろんエムバペ。決めれば試合を動かせる一方で、外せば万事休すという精神力が試される中で、左への強烈なシュートを突き刺してみせた。1点を返して息を吹き返すと、その1分後、メッシのボールを奪ってからスピードアップし、左で浮き球を頭で落としたエムバペは、折り返しのループパスを、ダイレクトで右足フィニッシュ。スタンドで試合を見守ったフランスのエマニュエル・マクロン大統領もガッツポーズで大興奮した一撃であり、とてつもない難易度のボレーシュート。試合を振り出しに戻したことに加え、エムバペは、得点王争いでも7点目で単独トップに立ってみせた。

 延長戦にもつれ込んだ試合、108分にメッシのゴールでリードを奪ったのはアルゼンチンだった。しかし、三度フランスを救ったのはもちろんエムバペだった。118分にPKを獲得すると、またしても左への強烈なシュートを突き刺して同点に。本田圭佑ABEMAワールドカップGMも「これは認めざるを得ない」と脱帽するパフォーマンスだった。

 このゴールでPK戦での決着に持ち込んだエムバペ。残念ながら敗れることになったものの、先行で最初のキッカーを務めた10番は、持ち前の“鬼メンタル”を見せつけ難なくシュートをネットに突き刺してチームに勇気を与えた。今大会で8得点を挙げ、見事ゴールデンブーツ(得点王)を獲得したが、ファイナルで敗れた失意の中、笑顔はなかった。

 何度見ても圧倒的な8ゴール。「神童」「怪物」と呼ばれたフランス代表の若きエースは、MVPを獲得したメッシに勝るとも劣らない、主役であり、勇敢なる敗者だった。

 ただし、彼はまだ23歳。この先何度、我々はエムバペに驚愕するだろうか──。
(ABEMA/FIFAワールドカップ カタール 2022)