サッカー日本代表はFIFAワールドカップカタール2022でラウンド16敗退という結果に終わった。スペイン代表とドイツ代表を撃破しての決勝トーナメント進出を評価する声も多いが、そのままでは日本サッカーは停滞するだろう。日本サッカーが前に進むための総括とは何なのかを真剣に、そして冷静に考える必要があるだろう。後編では日本代表が主導権を握るために必要な戦術的なコンセプトを模索する。(文:河岸貴/構成:加藤健一)

●主導権を握るサッカーを目指すべき

 この大会で日本代表は、5バック(3バック)で長い時間戦っていました。そして、すべてのゴールが生まれたのも5バックを採用している時間帯でした。

 一昔前の5バックはペナルティーエリアのライン付近に並ばせて、失点しなければいいという発想のものでしたが、今は違います。ラインを高く設定して、前から制限をかけたい。

 ただ、そのような戦いをするには意思の疎通が重要になります。一発勝負のワールドカップでは1点取られると立ち直るのが難しいですし、さらに短い準備期間の中でそれを成熟させるのも難しい。そのため、消極的な5バックをやっているチームはありましたが、「迎撃型」と私が呼んでいる能動的な5バックをやっているチームは多くありませんでした。

 でも、5バックで守るという選択肢は、日本代表に合っているのかもしれません。コミュニケーションをとって戦える日本代表であれば可能性があります。

 前に3人置く「5-2-3」の形であれば、「2」の脇は使われやすいのですが、後ろが「5」だからこそ、この5人は正面からアタックしやすい。「3」のところでしっかりと制限をかけつつ、ボールを奪ったら後ろからどんどん出られるようなシチュエーションを作りたい。日本代表には遠藤と守田という非常にいいボランチがいるし、奪ったときに前に「3」がいるというのもメリットです。

 日本代表は今大会のように規律正しく守ることができるけど、攻撃にも特徴はあるので、主導権を握るサッカーを目指すべきだと思います。ショートカウンターからゴールを決めたドイツ代表戦やスペイン代表戦の同点ゴールをお手本として、もっと突き詰めて考える必要があります。

●「主導権を握る」をどう解釈するか?

 イングランド代表を見ていても、奪ってからが速い。フリーランニングも素晴らしいし、主導権を握るというのはまさにこれだと思う。また、モロッコ代表のような戦いを、主導権を握っていると解釈できるかどうかも重要です。

 スペイン代表やブラジル代表みたいに、ボールを持ってコントロールしたいというのもありますが、相手にボールを持たせてゲーム自体をコントロールするという戦い方もあります。カウンターを効果的に繰り出していれば、ボール保持率40%くらいでも主導権を握っている試合はあります。そういう意味で考えても、日本代表は主導権を握れる時間が少なかった。

 主導権を握るためには戦術的なコンセプトが重要になります。どういうプランでカウンターを出すか、どういう奪い方をするのか。ショートカウンターから決めたスペイン代表戦の堂安律のゴールは、奪い方からシュートという形がとても良かった。

 中盤だったり、自陣で奪うところ、ロングカウンターができるというのは証明されたと思う。次は相手陣内でサッカーをしてショートカウンターを出せるかというところになってくる。相手陣内でサッカーをするために大事なことはリスクマネジメントで、これができないとドイツ代表のようになります。

 攻撃のコンビネーションももちろんそうですが、失っても大丈夫だという共通理解も大事になります。やはり選手たちは取り返されるのが怖いとチャレンジできない。ボールを持っても「どうしよう」となって無難なパスを回し続けるだけになってしまいます。

●ボール非保持時がクリエイティビティを担保する

 これが顕著に出てしまったのが、コスタリカ代表戦でした。最終予選のサウジアラビア代表戦で、同じようなシチュエーションで負けています。ボールを保持させてもらえる展開、個々人に責任がかかったときに弱い。

 Jリーグを見ていても、ボールを失いたくないという気持ちを感じることが非常に多い。コスタリカ代表戦を見ていて、「この選手はやる気あるのか?」という声があったと思いますが、判断に迷ってしまうとそう見えてしまう。選手たちにはチャレンジしていいという担保がなかったし、それが本当の意味で彼らの弱さ、改善すべき点でした。

 だからこそ、自分たちが主導権を握るためには、失った後にクローズアップしなければなりません。失うシチュエーションもある程度想定できるコンセプトがないと厳しい。

 ここでプレーしたらこうなる、ここで失う可能性はあるけど、ビッグチャンスになる可能性があるという瞬間がみんなで共有されていれば、その瞬間にゲーゲンプレスができる。攻撃のクリエイティブさを保証するようなボール非保持時の共通理解が必要になります。

 たとえば、鎌田大地はフランクフルトで活躍していますが、彼だけがスーパーというわけではない。主導権を握ったときのクリエイティビティだったり、失敗しても大丈夫という担保があるから輝ける。日本代表でも、「三笘薫なら1対1にいくから、失ったらどうするか」というリスク管理が大事。逆接的かもしれないが、ボール非保持時がクリエイティビティを発揮させるための保険になります。

(文:河岸貴/構成:加藤健一)

【W杯総括前編】12年前と同じ…。サッカー日本代表が受け止めるべき敗北