“毒霧”誕生秘話に“隠し子”疑惑も ザ・グレート・カブキが語ったグレート・ムタへの思い
【映像】ザ・グレート・カブキが語ったグレート・ムタへの思い

 1980年代前半、顔面に不気味なペイントを施し、口から緑や赤の“毒霧”を吹くオリエンタルギミックで全米マット界を震撼させた“東洋の神秘”ザ・グレート・カブキ。そして1989年3月、そのカブキの“息子”という触れ込みでアメリカのメジャー団体WCWに登場し、瞬く間にトップレスラーとなったのがグレート・ムタだった。

【映像】ザ・グレート・カブキが語ったグレート・ムタへの思い

 今回、1.22プロレスリング・ノア横浜アリーナ大会でグレート・ムタがラストマッチを迎えるにあたり、偉大なる父であるカブキに“息子”ムタへの思いを語ってもらった。(取材・文/堀江ガンツ)

――武藤敬司選手が引退すると聞いたとき、どう感じましたか?

カブキ そうか、そういう時代になったのかなって。でも、長い現役生活でその功績は大きいですよ。

――武藤さんは「武藤」と「ムタ」という二つの顔を持っています。1989年3月にグレート・ムタがカブキさんの「息子」という触れ込みで、アメリカのメジャー団体WCWで闘い始めたとき、どう思いましたか?

カブキ うれしい反面、自分の息子でやるっていうのはどんなもんだろうなって思いましたね。

――「カブキの息子」というアイデアは、ムタのマネージャーで、カブキさんのアメリカ時代のマネージャーでもあるゲーリー・ハートの発案だと知られていますが、カブキさんから見てゲーリー・ハートはどんな人でしたか?

カブキ あの人は策士ですよ。そういうアイデアとか仕掛けを考えるのがうまい。自分と組んでいた時も、試合を見ていて「おまえ、こういうところはこうしたらどうだ?」とか、重要な気づきを与えてくれる人でしたね。

――「カブキ」というキャラクターもゲーリー・ハートのアイデアだったんですよね?

カブキ そうです。ゲーリーと組み始めた時は素顔でやってたんだけど、「これじゃダメだな」と思ったんですよ。「今までの日系レスラーと変わらないスタイルだな」と思って。そうしたらある日、ゲーリーが歌舞伎役者の写真が載ってる雑誌を持ってきてね。彼は俺のことを「ソンソン」と呼ぶんだけど、「ソンソン、こういう格好できるか?」って聞かれて、「できなくはないよ。やってみようか?」っていうことで、日本から衣装を送ってもらって、和装でリングに上がるようになったんですよ。

――顔面ペイントもそこで始めたんですか?

カブキ 最初、ゲーリーは歌舞伎役者の隈取り(くまどり)をお面だと思ったらしくて「マスクを被ってくれ」って言われたんだけど、「これは化粧してるんだよ」って教えてね。それでメイクすることになったんだけど、メイク道具なんか持ってないから、赤は女性の真っ赤な口紅、黒はアイラインを使って、ペイントし始めたんです。

――そうやって徐々にキャラクターができあがっていったんですね。

カブキ 毒霧だって偶然思いついたものですからね。試合後シャワーを浴びていたとき、お湯が口に入ってね。ライトの方に向けてフッと吹き出したら虹がスーッと流れて。「おー、きれいだな」と思った次の瞬間、「これだ! 色付きの霧を吹こう」と思いついたんですよ。それでいろんな色を試してみて、いちばんリングで映えたのが赤い毒霧と緑の毒霧。

――その企業秘密をムタが引き継いだわけですよね。

カブキ あれはゲーリーが教えたんでしょう。あいつ、なんでもしゃべっちゃうから(笑)。

――自分が考えたギミックを使われて、悔しさとかはなかったんですか?

カブキ いや、うれしかったですよ。それで仕事ができるならいいやと。

――グレート・ムタはWCWで瞬く間に人気が出て、リック・フレアーとNWA世界ヘビー級タイトルマッチを何度もやるようになりましたからね。日本人がそこまでいくのはすごいことじゃないですか?

カブキ いや、すごいですよ。なかなかいないからね。

――ムタが活躍した時代は、ケーブルテレビの全米放送も始まったことで知名度も一気に増して。その全米放送のおかげで、カブキさんに「隠し子疑惑」が持ち上がったんですよね?(笑)。

カブキ そうそう。ある時、アメリカにいる娘に「お父さん、私たち以外にも息子がいるでしょ」って言われて、「そんなのいねえよ!」って言ったら、「テレビにカブキの息子が出てたよ!」って言われて。「あれは違うよ!」って説明したんだけど、えらい騒動になったよ(苦笑)。

――カブキさんが実際にグレート・ムタの試合をご覧になられたのは、新日本になってからですか?

カブキ そうですね。すごくセンスいいなと思いましたよ。彼は試合運びもそうだけど、ちゃんとお客さんの反応を見てるんですよ。今、お客さんの反応を見ながら試合ができるレスラーっていうのは、少ないですよ。

――カブキさんやムタが使うようになってから、毒霧を吹く人がたくさん増えたじゃないですか。カブキさんからすると、「このタイミングじゃないんだよな」っていう思いもあったりするんじゃないですか?

カブキ あるね。

――ムタのタイミングはどうですか?

カブキ 良かったですよ。毒霧っていうものを彼はわかっていて吹いているな、と。どういうタイミングで吹けばいちばん効果があるのか。さんざん相手を痛めつけてブーイングを浴びたあと、ベビーフェイスがカムバック(反撃)してきたところで、1発でブゥーッ!っと毒霧を吹いて、パッとフォールで押さえ込む。これが痛快ですよ。

――1発で勝負をひっくり返すタイミングが重要なわけですね。

カブキ そうするとお客さんはハッと息を呑むでしょ。そうじゃなきゃ、吹く意味はないんですよ。

――カブキさんは80年代初頭、テキサス州ダラスで変身して以来ずっと「カブキ」ですけど、武藤さんは日本で「武藤敬司」というベビーフェイスと「ムタ」というヒールを同時進行で使い分けていました。

カブキ それはすごいですよ。武藤選手はやっぱり天才的なところがありますよね。この商売にいちばん合ってるんじゃないですか。

――普段、大歓声を受けている武藤敬司が、ムタになった時だけ観客を怒らせ、大ブーイングを受けてきたわけですからね。

カブキ そうやって、お客さんの心を操るのは大変なことです。難しいですよ。だから若いレスラーによく言うんですよ、「この商売はバカじゃできない、利口でもできない、中途半端じゃなおできない」って。こう言っても、若い奴は「は?」って感じですけどね(笑)。

――武藤さんは、その極意が理解できる選手ですか?

カブキ だから、トップレスラーなんですよ。

――1993年には、新日本の日本武道館大会でカブキvsムタの“親子対決”も実現しました。この試合はどのように闘おうと思いましたか?

カブキ これはいろいろ考えても無理だなと思いましたね。同じようなキャラクターで、同じような技も使うから、お客の反応を見ながらじゃないと盛り上がらないだろうなと思って。客任せですよ。

――ムタは親父に対しても容赦なくガンガン悪のかぎりを尽くしてきました。

カブキ やっぱり親父のほうが弱いですよ(笑)。

――でも、カブキさんが頭を割られて、額から噴水のように血が噴き出るホラー映画顔負けのシーンは、いまだ多くのファンの脳裏に焼き付いてますよ。

カブキ きれいに飛んでたからね。その血を左手で受け止めて、それをまた口にふくんでフーッて吹いたりしてね(笑)。

――ムタの恐ろしさを上回るためには、ムタのできないことをやるってことでもあったんじゃないですか?

カブキ うん。彼ができないことをやらないとね。同じことをやってもインパクトで上回れないから。あと、これはムタじゃなくて武藤と試合をやったときだけど、後ろから首をクローして、目の前をみたら武藤の頭のてっぺんに毛がないんですよ。それで首を絞めながら、小声で「武藤、頭ハゲてるな」って言ったら、武藤が「カブキさん、それはやめてください!」って言ってね(笑)。

――試合中に武藤さんを口で動揺させる! それもベテランのインサイドワークですか(笑)。

カブキ 少しビビらせないとね。でも、しばらくしたらスパッと剃っちゃったから通用しなくなったね(笑)。

――カブキさんは三沢光晴さんのこともよくご存じですよね。武藤さんと三沢さんは「永遠のライバル」のように見られてよく比較されましたけど、カブキさんの目から見ていかがですか?

カブキ ふたりともいい選手ですよ。試合運びのうまさとか、タイミングもそうだし。よく似たタイプですよね。だから試合をやったら面白かったんじゃないかと思います。ただ、自分が知ってる頃の三沢選手はまだ若くてグングン伸びてる頃だったから、比較すると武藤選手のほうが一枚上じゃないかと思いますけどね。

――武藤さんが一枚上手というのは、海外のいろんなテリトリーでさまざまな経験を積んできたからですかね?

カブキ そうでしょうね。

――グレート・ムタの試合を見ても、そういう経験の蓄積が見えますか?

カブキ やっぱりいろんなところで試合をすると、いろんなお客さんがいて、いろんな反応を起こしますから。そういうのも面白いし、勉強になりますからね。

――そのグレート・ムタは1月22日、横浜アリーナでラストマッチを迎えます。最後はどんな闘いを期待しますか?

カブキ 今までどおりのムタでいいんじゃないかなと思いますね。きっと最後は、お客さんに「ありがとうございました」っていう気持ちになるから。やっぱり引退っていうのは寂しいですね。

――当日はカブキさんもゲストとして来場されるんですよね?

カブキ それはまだわからないんだけど。

――いや、カブキさん。すでに正式に来場が発表されてます(笑)。

カブキ あっ、そう? じゃあ、最後の日はムタにリングとの別れ方を教えますよ(笑)。

――引退後は、やっぱりリングが恋しくなりますかね?

カブキ なりますよ。リングを見たら上がりたくなりますよ。だから自分も試合はしなくても、たまに呼ばれればカブキとしてリングに上がってますけど。もしかしたらグレート・ムタもしばらくしたら上がってくるかもしれないね(笑)。

――神出鬼没ですからね(笑)。では、ラストマッチを迎える“息子”にメッセージをいただいてもよろしいですか?

カブキ わかりました。武藤選手、長い間ご苦労さまでした!第二の人生もがんばって、武藤敬司でやってください! よろしくお願いします!

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