11月5日、新宿・歌舞伎町で男性が女性に路上で刺される事件が発生した。警視庁によると、2人は過去に交際していたという。怒りを露わにする女性の近くには、路上に横たわる男性と、必死で救助にあたる人の姿。
「民度の低さが一線を超えている。こんなにも人間はクズばかりなんだということを目の当たりにして、本当に驚いています」(青笹寛史氏のXから)。1200文字におよぶ長文を投稿をしたのは、救助にあたっていた男性。現場では多くの人が助けに回らず、スマホ撮影をしていたという。
一億総カメラマン時代となった今、スマホ撮影の功罪は。救助にあたった医師免許を持つ動画編集CAMP代表の青笹寛史氏をゲストに迎え、『ABEMA Prime』で議論した。
青笹氏は当時について「現場に遭遇したのは、おそらく刺してから20、30秒後。その時は通り魔事件なのか、何なのかは分からなかったが、周りから男女トラブルだと聞いた。加害者の女性が掴まれていて、周囲が安全であることを確認した上で、近づいて処置にあたった」と説明。
救助については「ある男性が止血しながら救急車を要請している状態で、私も加わって救急車とAEDを要請したのだが、なかなか反応がもらえなかった。『あなた、お願いします』と何人かに声をかけたが、若い男女は取り憑かれたかのようにスマホを構えて近づいてくるだけ。異様な光景だった。最終的にある男性が救急車を呼んでくださった。『手伝いましょうか?』と言ってくれる方もいたが、数人だけだった」と振り返る。
また群衆について、「声は届いているはずなのに何も反応しない、変な集団のようだった」とも表現し、「『AEDを持ってきてほしい』という呼びかけに、すぐに反応してほしい。『あなたが持ってきてください』『じゃああなた』という時間がもったいない」と、救助時の緊迫した様子を明かした。
歌舞伎町の事情に詳しい佐々木チワワ氏によると、男女のもめ事は歌舞伎町では日常茶飯事。多くはホストが絡むトラブルでその本質は「色恋話にお金と刃物が絡むもの」だという。今回の事件は、「客とホストっぽい感じが、関わりたくなさを助長した可能性も」との見方を示している。
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「人生でAEDを取りに行く経験はあまりない。とっさに言われたとき、どこにあるか分からない、自分が行っていいのか? と思考停止になってしまうのではないか。“民度が一線を越えている”という気持ちはすごく分かるし、青笹さんが救命処置に当たられたのは尊い行為だが、全員が対応するというのは非現実的な話。そこを理想にしてしまうと、現実とのギャップが生まれているのではないか」と指摘。
青笹氏は「民度が低いというのは、ちょっと言いすぎた部分もあったと思う。“歌舞伎町は世間とは違うよね”という論調があるが、守らなきゃいけないラインはある。また、SNSが社会に広がっていき、みんながスマホや“いいね”にとらわれていく中で、それにも限度があるよね、と。“一線は守ろうよ”という気持ちで投稿した」と、Xへのポストの意図を明かした。
一方で、撮影した映像が後の検証に使われるなど利点もあるのではないか。「撮ることは後付けで正当化できると思うが、スマホを向けていた人たちの空気感や顔は、報道のためや証拠を残すためという雰囲気とは違った。ニヤニヤしていたり、撮った後に電話しながら立ち去る人だったり。全員がそうではないとは思うが、理屈じゃない感覚はある」と話す。
オンラインサロン田端大学塾長の田端信太郎氏は「男性が重傷で、人混みのせいで、救急車の到着が遅れて亡くなってしまう、という最悪の事態もあり得た。有名な私人逮捕系のYouTuberが逮捕されたが、一億総カメラマン社会の中で、ショッキングな動画を撮っておけば、お金とは言わないけども“何かいいことがあるかも”みたいな。この感覚が行き過ぎた結果がだと思う」と述べた
新潟青陵大学大学院の碓井真史教授は、事件や事故、災害など非日常に遭遇した時、多くの人は“それを記憶・記録したい”“人に話したい”という欲求を抱くと解説。デバイスが発達した現代では、欲求が歪んで増幅する、人助けより記憶・記録が優先される、SNSで世界から承認される、などの勘違いが生まれていると指摘する。
大空氏は「ここで議論したところで、撮ってSNSにあげる行為はなくならない。個人的にはプラットフォームの責任だと思っていて、そういう映像をアルゴリズムでどんどん見せ、タイムラインにも平気であげる。先日には飛び降りの映像がSNSのトレンドに入ったわけだが、そこに意義はない。バズらせたり、価値を付与しているのはある種、プラットフォーマー側なのではないか」と主張した。(『ABEMA Prime』より)
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