「薬屋のひとりごと(くすりやのひとりごと)」はヒーロー文庫から刊行されている日向夏氏によるライトノベルで、2種類のコミカライズを含めたシリーズ累計発行部数は3800万部を突破しています。アニメ版も2023年10月より連続2クールにて全国放送・配信中です。
この記事では、「薬屋のひとりごと」の時代設定を解説。モチーフとなった唐代や楊貴妃、後宮の宦官(かんがん)についてや、同じく中国を舞台とする名作「キングダム」との時代差を考証します。
目次
- アニメ「薬屋のひとりごと」とは
- 「薬屋のひとりごと」に登場する国・茘は実在する?時代設定は?
- 戦国時代の中国を描く「キングダム」と、どのくらい時代が違うのかを考証
- まとめ
アニメ「薬屋のひとりごと」とは
「薬屋のひとりごと」は、後宮で起こる難事件を、新人の下女・猫猫(まおまお)が薬学の知識で解決する謎解きエンタテインメントです。
後宮で下働きをする猫猫は、ある日、上級妃と御子への呪いの噂を聞きつけます。妃の顔を見ただけで不調の原因に勘付き、呪いの原因を特定する書き置きを残しました。その聡明さが美形の宦官・壬氏(じんし)の目に留まり、猫猫は上級妃直属の毒見役に昇格。以後、壬氏や帝から持ち込まれる厄介事の解決にも関わっていきます。
「薬屋のひとりごと」に登場する国・茘は実在する?時代設定は?
「薬屋のひとりごと」の舞台・茘(リー)について、原作者・日向夏氏は「ファンタジーですので、実在の国ではありません」と明言。時代設定に関しては「モデルは唐代、楊貴妃の時代を中心に衣服や花街、後宮はイメージ。文化レベルは、十六世紀ごろにしておりますが、科学的知識は十九世紀ごろくらいまでなら使うようにしています」と、独特の世界観の裏側を語っています。
実際に、作中には7〜8世紀の唐代になかったであろう物や情報が、たびたび使用されています。第2話にて媚薬として登場したカカオや、第5話の炎色反応、第10話の蜂蜜による乳児ボツリヌス症も、8世紀よりかなり後の時代の知識です。
カカオは紀元前から南米に存在しますが、他大陸に広まったのは、唐代より後の16世紀といわれています。炎色反応の発見は19世紀で、猫猫が言及した花火は14世紀よりイタリアで発展したとする説が有力です。蜂蜜による乳児ボツリヌス症は、1976年にアメリカで発見されました。
世界三大美女・楊貴妃はいつの人? 中国の国家・唐の歴史と時代背景
作者が時代設定のモチーフとした楊貴妃は、本名を楊玉環といい、745年に唐の第9第皇帝・玄宗の貴妃となった女性です。
唐とは、日本の飛鳥時代から平安時代にあたる618〜907年に栄えた中国の国家で、建国者は李淵(りえん)。前時代は、推古天皇が国交のために遣わせた遣隋使でも知られる隋でした。
楊貴妃を寵愛した玄宗皇帝は、唐の第3代皇帝・高宗の皇后で後に女帝となった武則天(則天武后)によって衰退した国を復活させた立役者です。
アニメ「薬屋のひとりごと」では、現帝は、女帝からではなく、女帝の傀儡だった先帝から帝位を受け継いでいます。
後宮で働く壬氏のような宦官はいつまで実在した?
アニメ「薬屋のひとりごと」のキーパーソンである壬氏(じんし)をはじめ、やぶ医者や猫猫の養父・羅門(るぉめん)など、作中にはさまざまな宦官が登場します。
宦官とは宮廷や貴族などに仕える者で、去勢された男性を表す言葉です。宦官は古代中国だけでなく、ビザンツ帝国・古代ギリシャなど各国に存在していたといわれています。実際に、官僚として政治を影から支えていた宦官もいました。
中国では、紀元前14世紀の殷時代に、異民族の捕虜を宦官とするという文献が発見されています。宦官が廃止されたのは1912年。清王朝が滅び、共和制の中華民国がスタートした時代からです。
戦国時代の中国を描く「キングダム」と、どのくらい時代が違うのかを考証
「薬屋のひとりごと」の舞台である茘は、おもに618~907年の唐時代をモデルにしています。一方、「キングダム」では秦が中国全土を統一する紀元前221年までの様子が描かれています。2作品の間には、1000年以上の時代差があり、カカオや炎色反応といった文化・科学知識を比較すると1500〜1800年ほど後となる部分もあります。
「キングダム」のストーリーの主軸は、紀元前770〜紀元前221年とされる春秋戦国時代の中でも、エイ政が王位を継いだ紀元前247年以降。「薬屋のひとりごと」のモデルは、エイ政即位の992年後である、楊貴妃が帝の貴妃となった745年頃の中国です。
時代はかなり違いますが、どちらの作品にも、後宮と宦官が登場するという共通点もあります。「キングダム」では、宦官のフリをしたロウアイが皇太后の寵愛を受け、アイ国反乱編(あいこくはんらんへん)の火種になりました。
また、「薬屋のひとりごと」のモデルとなった唐の王都・長安は、秦の時代は咸陽と呼ばれ、同じく王都とされていました。
まとめ
「薬屋のひとりごと」に登場する国・茘は、実在の国ではありません。作品のモチーフは、唐代の中国。そこに、16世紀ごろの文化や、19世紀ごろまでの科学的知識といったアレンジが加えられています。中国の戦国時代を描く「キングダム」とは、1000年以上の時代差があります。
「薬屋のひとりごと」の世界は、皇帝が絶大な権力を握る唐代に、さまざまな時代の文化や知識が加わったオリジナルの時代設定です。猫猫のクールな謎解きの根幹をなす知識が、現実ではどの時代に出てきたのか。この記事を参考に、そういったものを調べながら視聴するのも、おもしろいかもしれませんね。
(C) 日向夏・イマジカインフォス/『薬屋のひとりごと』製作委員会
※エイ政のエイは環境依存文字
※ロウアイのロウとアイは環境依存文字
アニメ『薬屋のひとりごと』放送回一覧(動画リンクつき)
話数 | サブタイトル(タップで動画へ) | 見どころ |
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1 | 猫猫 | 猫猫の正義感が幼子を救う |
2 | 無愛想な薬師 | 媚薬の出来はバッチリ!? |
3 | 幽霊騒動 | 奇行の裏の真実に気づく猫猫 |
4 | 恫喝 | ガチギレ猫猫のマジビンタ! |
5 | 暗躍 | そばかすを落とした猫猫の顔 |
6 | 園遊会 | 「これ、毒です」猫猫が本領発揮 |
7 | 里帰り | 高順の前で素が出てしまう壬氏 |
8 | 麦稈 | 「一夜の対価」に壬氏、硬直 |
9 | 自殺か他殺か | 猫猫の死生観、壬氏の懊悩 |
10 | 蜂蜜 | 変態に追い詰められる猫猫 |
11 | 二つを一つに | 阿多妃の過去が明らかに |
12 | 宦官と妓女 | 猫猫、指先だけならお触りOK |
13 | 外廷勤務 | 官女とのドロドロバトル |
14 | 新しい淑妃 | 「女の園の秘術」を教授 |
15 | 膾 | 曲者な軍師・羅漢が来た! |
16 | 鉛 | 鍵の開かないタンスの謎 |
17 | 街歩き | 妓女の価値を下げる方法 |
18 | 羅漢 | 猫猫と羅漢の関係が明らかに |
19 | 偶然か必然か | 命を守るため、猫猫が走る |
20 | 曼荼羅華 | 壬氏が飲む薬の効果 |
21 | 身請け作戦 | 隙あらば嫉妬する壬氏 |
22 | 青い薔薇 | 羅漢の目に映る人々 |
23 | 鳳仙花と片喰 | 妓女・鳳仙と羅漢の悲恋 |
24 | 壬氏と猫猫 | 壬氏の頭突きを食らう猫猫 |
・無料でみられる「薬屋のひとりごと」エピソード・見逃し配信一覧