■上京への迷いと「HANDSIGN」との出会い
「俳優として活躍したい」。高校生になり、数々のオーディションに挑戦したが、合格か不合格か結果を知るには、親が電話で対応しなければならなかった。ひとみさんは「保護者の対応が必要なところは受けるのを諦めることもあった」と明かす。
そんなとき、あるアーティストの存在が支えとなった。音楽ユニット「HANDSIGN(ハンドサイン)」のSHINGO(シンゴ)さんとTATSU(タツ)さん。2025年で結成20年目。歌とダンスに手話を取り入れたパフォーマンスが特徴だ。
ろう者がモデルとなったドラマをみて始めたという手話ダンス。今や聴覚に障がいがある人たちが多く集まるステージになった。TATSUさんは「僕らがやってる音楽は誰かに伝えたくて、聞こえない人にも伝えたくて、そんな気持ちで音楽をやっています」と語る。
さくらさんがまだ中学生だったとき、尾道市で行われたライブ後の懇親会で出会った。TATSUさんは「初めて『両親が聞こえなくて私が聞こえる』CODAという存在を知って。そういうのがあるんだと思って。お母さんとすごく楽しそうに話しているのが第一印象でしたね」と振り返る。
そして高校2年生のとき、芝居を学べる東京の高校に1人で転校することに。そのことをハンドサインに報告すると、「さくらさんと家族をモデルにした曲を作る」という形で応援してくれた。
「世界で一番静かな家庭に 声響いて生まれてきた 他の家とは少し違うけど 笑顔絶えない素敵な日々 静かな世界から 私をいつも見守ってくれた 強くて優しい あなたに伝えたい 届けたいこと あなたの 愛でずっと愛でずっと 愛されていること 私はいつも気づいていたのに 何でもっと何でもっと 言えなかったんだ あなたに伝える ありがとう」
ライブを訪れた生まれつき耳が聞こえない観客は「手話がついていないのと違って手話がついていると、すごくかみしめて頭の中に入ってくる感じがします」と話す。
耳の聞こえない家族を残し本当に上京してもいいのか、迷いもあった。そんなさくらさんの背中を、家族はそっと押してくれた。母・ひとみさんからさくらさんに宛てられた手紙にはこう書かれていた。
「さくらずっと応援します。感謝・笑顔でいてね。少し寂しくなりました。さくらなら大丈夫。ハンドサインの兄さんと会って楽しく過ごしてください。ママより」
「ろう者の役」を演じる葛藤
