■乙武氏「夢精してもパンツすら洗えない。地獄の苦しみだった」

 当事者だけでなく、福祉の現場や家族にまで及ぶ性の問題。射精介助を含めたサポートを行うホワイトハンズの坂爪氏は、取り組みを始めた経緯について「現行の制度は、障害のある人は射精しない、生理はこない、恋愛はしない、結婚も妊娠もしないという、性がないという前提で仕組みができてしまっている面があると思う。そこに、射精という限定的な部分ではあるが一石を投じようという思いがあった。利用者からは、射精だけでなく性のことを話せる場所があってよかったという声も聞く。やはり言いづらい部分があると思う」と話す。

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 ホワイトハンズは2008年4月に設立。全国19都道府県で計714人が利用してきた。料金は寄付を活用し、現在は無料。女性は着衣したままで、利用者から触ってはいけない決まりがある。利用者の声としては、「男としての自信、健全な思考を取り戻すことができ、精神的ストレスが減った」「食事・排泄介助と同様に行われるケアとして普及してほしい」「できれば服を脱いでほしいし、体にも触れたい」という意見もある。

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 これに対し、作家の乙武洋匡氏は「服を脱いでほしいということは別で論じていかなければならない」と言及。「この問題を語る時に、健常者とどこが違うのかということはひとつ重要なものさしになってくると思う。男性の場合、彼女やパートナーがいる・いないに関わらず、自慰で性欲を処理することが健常者にはできて重度障害者にはできない。物理的にどうしてもできない部分には、他者のケアが必要だというのは正論だと思う。しかし、相手に服を脱いでほしい・体に触れたいというのは健常者も思うことだし、それが人間関係などの問題で叶わない人もたくさんいる。なぜ障害者だけ支援してもらえるのかというのはややこしい話になるので、明確に分けて語るべき」と述べた。

 ホワイトハンズで射精介助を行っているスタッフは、東京と大阪で現在4名。ケアをする側からは「恥ずかしいという意識がなく『ケア』と考えている」「性欲を解消することで周囲とのコミュニケーションが豊かになっている」「生活の質を上げる支援となる」といった前向きな意見があがる。一方、世間からは「一般的な風俗と同じだ」「福祉サービスを金儲けに使うな」という批判の声と、「当事者だけでなく家族からも感謝される」という賛成意見も。

 賛否の声に坂爪氏は「風俗は娯楽がメインだが、射精介助は健康や自立、尊厳の視点から。娯楽目的ではなく介護的な枠組みでやっているスタンス」だと説明する。

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 利用者の多くは、家族に中々言えないことで悩んでいるという。乙武氏は自身が当事者だとしたうえで、「利用者にとってホワイトハンズは神様のような存在。僕も10代の頃は自分で自慰行為はできず、数週間に一度、気づくと夢精していた。そして、そのパンツを自分で脱ぐことも洗うこともできない。恐らくそれを母が無言で洗濯をしてくれていた。やはり、地獄の苦しみなんですよ。若い頃に聞いた話だと、母親が自分の息子は一生女性と関わることはないだろうと心配して、かわいそうに思って、母親本人が息子の人生で唯一になる性の相手をするケース。施設に入っていて首から上しか動かない方は、当然自慰行為をすることができないので、恋愛対象が本来は女性であるにも関わらず、他に手段がないために男性同士で相手のものを口でしてあげるという現実もある。それを10代で聞いた時には、自分の将来に対して不安も抱いたし焦りもあった。僕の場合は比較的コミュニケーションが図れ、表に出ていくタイプの人間だったので、自分で切り開いていくことがたまたま可能だった。しかし、言語の状態によってそれが叶わない方もいるわけで、そういう方にとって坂爪さんのサービスは神様」と話す。

 また、視聴者からの「乙武氏はモテている」という意見については、「数年前の騒動で私は“性の問題を克服した人”として捉えられているのかもしれないが、それは僕の中では肯定できない。もしかすると来月、僕もホワイトハンズにサービスをお願いしているかもしれない。いつそうなるか分からないという背中合わせの立場にいることは変わらなくて、一生抱え続ける問題なんだろうなと思っている」と答えた。

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 元AV女優でタレントの麻美ゆまは「ホワイトハンズの活動が10年前からで、もっと前から出てきてもおかしくない話だったと思う。私自身、病気で子宮と卵巣をとって、女性としての自信をなくした時期があった。やはり女性と男性は全く違うと思っていて、男性は本能的に出したいという欲求、女性はホルモンバランスがある。男性の出すという行為は治療の一環だと思う。AV業界でもヘルスケア部門ができてきていて、福祉に介入していくという話に発展していけばいいと思う」と期待を寄せた。

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