日本代表は6月14日に行なわれたキリンカップサッカーの決勝で、チュニジア代表に0-3という屈辱的な敗戦を喫した。

 6月シリーズの4試合目としてショッキングな結果ではあるが、この試合を通じての学びも多かった。1つは試合後にチュニジアのジャレル・カドリ監督が振り返ったように、日本のことをよく研究して対策してくる相手に脆さを露呈しやすいということだ。

 2試合目のブラジル戦は0-1という結果以上の力の差を痛感させられたが、それでも1点差で終えられた理由は、日本が劣勢な状況になることをチームも選手も想定して、耐える準備ができていたことが大きいだろう。

 しかし、チュニジア戦は基本的に日本が主導権を握れる想定で試合を進める中で、中締めをしてくる相手を崩しきれず、逆にハイラインの背後を狙われた。残念だったのは前半、何度かこの流れで危ないシーンがあったにもかかわらず、そこのケアが曖昧なまま後半に入ってしまったことだ。

 確かに3失点に絡んだ吉田麻也の個としての対応のまずさ、そして2失点目に関してはGKシュミット・ダニエルがカバーを躊躇したことも失点につながったと考えられるが、前半にも危険の兆候は見えていたのだ。

 もう1つチュニジア戦に大きく影響したのが、何度かあったチャンスを仕留めきれなかったことだ。興味深いことに、何度もチャンスを作れていた前半はシュートがゼロで、守備を固めてくるチュニジアに苦しんだ後半は6本を記録している。前半は南野拓実の見事なトラップからのシュートがオフサイドになったということもあるが、サイドからのクロスに偏っていたことがそのデータにも表われている。

 この試合でCFを務めた浅野拓磨をはじめ、右サイドから多くのチャンスを作った伊東純也も速いクロスを上げていたが、それでもゴール前で合わなかった。後半の三笘薫に関しても言えるが、サイドに個人で違いを出せる選手が揃っているなかで、クロスに合わせるFWのチョイスは重要だと痛感させられた。

 例えば39分、原口元気とのワンツーから伊東が上げたクロスに浅野が飛び込んで合わせにいったシーンは、チュニジアのディフェンスに防がれてしまった。浅野も攻守両面で奮闘してはいたが、本質的にクロスに合わせるタイプではない。
 
 そういう意味で、上田綺世の試合前の離脱は痛かったかもしれないが、日本の強みを生かすのであれば、今回はメンバー外だった大迫勇也も含めて、クロスのターゲットになれる選手というのは加えるべきだろう。

 ただ、前半にも本大会であれば必ず決めるべきチャンスがあった。34分、長友佑都の縦パスを起点に伊東が右サイドから縦に持ち運んでクロスを入れると、ファーサイドに鎌田大地が走り込んで合わせようとしたが、ショートバウンドをうまく右足で捉えられずに、ボールはゴール左に大きく外れていってしまった。シュートとしても記録されなかったが、明らかにシュートミスだ。

 鎌田はこのシーンのことをよく覚えていないと語っていたが、本大会であればいかなる相手であっても、おそらく1試合に一度、あるかないかというチャンスで、これを決めきれなかったことが、その後の試合展開にも結果にも大きく影響したことは疑いない。

 しかし、なぜ守備の堅いチュニジアに対して、あれだけのフリーを生み出せたのか。そこは単なる偶然ではなく、日本なりの狙いが表われていた。
 
 長友のパスを伊東が受けた時に、浅野はニアサイドで左CBのモンタサル・オマル・タルビとマッチアップ。そして左インサイドハーフの鎌田はその浅野とほぼ同じ高さでセンターにポジションを取っていた。チュニジアからすれば非常に危険な存在だ。ただ、この時点では右CBのビレル・イファが対応できるポジションにいた。

 左SBのアリ・エラブディの背後を取った伊東は、持ち前のスピードで縦に持ち上がる。中盤からモハメド・アリ・ベン・ロムダンがカバーしたが、対応が間に合っていなかった。そこで浅野とマッチアップしていたタルビが、伊東と浅野の中間位置、インの仕掛けとクロスの両方に対応する中間ポジションを取ったことで、右CBのイファも連動して中に詰めないといけなくなった。

 その状況で鎌田はチュニジア側のそうした動きに付き合ってセンターで構えるのではなく、ファーに流れることでフリーになったのだ。本来であればそこには右SBのモハメド・ドレーガーがいるはずだ。しかし、ディフェンスが下がりながら対応する流れで、その手前に生じるスペースを南野が狙って動いたことで、そこのケアに行かなければいけなかったのだ。

 伏線として中盤のロムダンがサイドのカバーに行かざるを得なかったことで、中央の守備が手薄になり、そこを右SBの選手が埋めるという選択を取ったことが、結果として鎌田をフリーにした。

 見方を変えれば、日本もサイドでチャンスができた時に反対側のインサイドハーフやウイングの選手がどう連動するかというのはトレーニングでもやっていたことで、このシーンはまさしくその成果だった。
 
 ゴールの可能性を高めるために、チャンスをより多く作っていく作業は大事だが、本大会でここまでのチャンスは本当に一回あるかないかで、そこを仕留め切れるかは大きな運命の分かれ目になる。これはどの国にも言えることだが、やはり強豪国は仕留め切る確率が高いというのは間違いないだろう。

 その意味で大きな教訓になったシーンではあるが、全体を見ればチャンスがサイド攻撃に偏っていること、中央の火力が弱く、相手側にもそう見られている実情がある。前半に仕留めきれなかったこと、後半の3失点などチュニジア戦は検証して今後につなげるべきポイントが多くある。

 今回の6月シリーズは4試合とも、この時期の試合としては意味のあるものだったが、ドイツやスペインに対抗するだけでなく、大陸間プレーオフを制したコスタリカから勝点3を掴み取るためにも、このチュニジア戦を検証して、戦術面のブラッシュアップやゲームコントロール、選手起用、そしてメンバー選考にも反映してもらいたい。

取材・文●河治良幸

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