日本がカタール・ワールドカップの初戦で対戦するドイツ代表は、6月のネーションズリーグ4試合を1勝3分けで終えた。
FIFAランキング40位でW杯に出場しないハンガリーに1-1で引き分けた試合こそ、メディアやファンからの批判が集中したが、4戦目のイタリア戦を5-2で快勝し、確かな希望をもたらしたことは大きい。
最初のイタリア戦(1-1)、イングランド(1-1)戦は、ボール支配率は高かったものの、シュートチャンスが多かったかというとそうではない。攻撃陣のボールを引き出す位置とタイミングがうまくかみあわず、いたずらにボールを回す時間帯が多くなる。
業を煮やして状況を打開しようと、レロイ・ザネやセルジュ・ニャブリ、カイ・ハベルツといった選手が無理にドリブルでかいくぐろうとするものの、逆に相手に奪われてカウンターの起点を自分達で作り出してしまうシーンも少なくなかった。
それが最も嫌な形で見られたのがハンガリー戦だった。イングランドやイタリアと違ってそこまで前からプレスに来ることはせず、自陣で組織だった守備を徹底し、ドイツをゴールから遠ざけるために労力を費やしてきたわけだが、それに対してドイツは打開策がないまま。前述のように不用意な仕掛けでボールを失っては、シンプルなパス回しと展開でカウンターへ移行するハンガリーに苦しめられていた。
ハンジ・フリック監督はハンガリー戦後に長いシーズンの後に4試合もしなければならないネーションズリーグのスケジュールに「あまりにも多すぎる」と興行サイドを批判し、選手への負担を危惧した。
その一方で、「結果だけではなく、自分たちのプレー内容に満足していない」とぴしゃり。「ドイツ代表として厳しい状況でも自分たちの力を発揮することを要求する」とメッセージを送り、己に甘えることなく、いまできる限りのプレーをやり通すことを望んだ。
そうした流れで迎えた最後のイタリア戦で、結果以上にプレー内容で監督を納得させることができたのは大きい。攻守に躍動感のあるプレーの連続がみられていたし、何よりワンタッチでのダイレクトパスが非常に多く、しかも有効に使われていたのが印象的だ。
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また、不調だった選手への対処法がうまくいったのも興味深い。代表でも所属クラブでもいまいちのプレーが続いていたティモ・ヴェルナーとザネだ。ファンやメディアからはため息がこぼれることも少なくないが、このイタリア戦でスタメン起用され、信頼関係とはなにかというのを見せた。フリックはこう話していた。
「選手が信頼を感じることが大事だ。我々はそのようにアプローチしていこうと思っている。ティモが今日2ゴール、レロイも非常にいいプレーを見せてくれた」
選手はそれぞれ性格も、感覚も違う。同じように対処すればいいわけではない。例えば「プレーへの喜びを持った」と表現がされる選手がいる。ザネはそうしたタイプの選手だろう。ボールを持ってプレーすることを誰よりも愛する選手にチームプレーを要求するときに、チームを助けてくれというメッセージだけでは不十分になる。彼らしさを出せるようにボールをどんどん預けていくというチームからのサポートも大切だからだ。
イタリア戦ではザネやヴェルナーがミスをしても、何度も鼓舞され、何度もパスが送られた。そんな仲間のサポートを受けてザネが走り出す。27分、イタリアがセンターから左サイドへ展開していくところで、ザネが味方選手を何人も追い越して相手選手にタックルしたシーンではファンからの大きな拍手が送られていた。
ヴェルナーは本調子とはまだほど遠いパフォーマンスではあったが、68分に待望のゴール。トーマス・ミュラーのチャンスメイクからニャブリのおぜん立てを受けて身体ごとゴールに飛び込むような得点だった。迷い全てを吹き飛ばすような勢いを感じさせられる見事なゴールだ。
頭をクリアにする時間が必要なことがある。1試合で変わるなんてことはない。だが、時間や環境の変化が何かのきっかけになることがある。フリックの信頼が彼らを支え、選手がそれに応えようと取り組む関係性が確かにあることが素晴らしい。
怖い時のドイツだ。1試合ごとに課題を修正して、調整してきている。2018年の時とはここが違う。当時は、試合を重ねても不安定さがあったのに、「ワールドカップ本大会が始まれば大丈夫」という雰囲気があった。でも結果はご存じの通りグループステージ敗退。ポジティブ思考は大切だが、楽観視するあまりに課題に正しく向き合わないようでは問題解決の糸口をつかむこともできない。
今回のドイツは違う。
「今日はストレステストだった。勝ちたかった。それをやり切ったチームをほめたい。今日見せてくれたサッカーは素晴らしかった。勇敢で、オフェンシブで、高い位置からプレスをかけていく。いい気持ちで休みに入れる」
イタリア戦後の記者会見におけるフリックの発言は、とても朗らかで自信にあふれていた。試合を重ねるごとに自分たちの足らないところに取り組み、若手に出場機会を与え、うまくいっていない選手のサポートもクリアしていく。チーム作りはかなり順調に進んでいるようだ。
文●中野吉之伴