2013年の韓国大会以来の優勝を目ざし、7月19日のE-1選手権初戦・香港戦に挑んだ日本代表。平日夜の鹿嶋、国内組のみの編成、格下相手という要素が重なり、観客数5000人を割り込む寂しいゲームになってしまったが、代表デビュー戦となった町野修斗(湘南)と西村拓真(横浜)の2人が揃って2ゴールを挙げたのは朗報だ。
「個々のパフォーマンスとしては、非常に強度が高く、ハイインテンシティ、ハイスピードで戦える選手が多かった」と森保一監督も前向きな発言をしており、彼らも初陣で好印象を残したと言っていい。
まずは町野だが、山根視来(川崎)のクロスに鋭く反応して頭で合わせた20分の1点目、水沼宏太(横浜)のクロスに西村が詰め、こぼれ球を押し込んだ57分の2点目と多彩なゴールパターンを持っているところが目についた。さらに185センチの高さ、足もとの技術、スピードといったスケールの大きさも感じさせた。
「自分の武器は収めるところだったり、背後へのランニングだったり、フィニッシュワークの多さ。多彩さが武器。でもホントにレベルアップしないと全然まだまだ日本を代表するストライカーにはなれないと思っています」と本人は手応えを口にしつつも、代表定着への道は険しいと考えている様子だった。
確かに大迫勇也(神戸)、浅野拓磨(ボーフム)、古橋亨梧(セルティック)ら既存の代表FW陣に比べると、国際経験値では劣ることは否めない。年代別代表経験がなく、香港戦1試合に出ただけの彼をワールドカップで使おうというのも早計すぎるかもしれない。
しかしながら、高さとスピードを兼ね備えたポストプレーヤーというのは、日本人FWにはなかなかいない存在。町野のような選手がいれば、大迫不在時でも前線でタメを作れるし、チーム全体が押し上げる時間を稼げる。シンプルなサイドからのクロスやリスタート時もターゲットとして有効だ。
カタールW杯まで4か月という短時間で彼を戦力にできるかどうかは微妙だが、先々を視野に入れて育てていくべき人材なのは間違いない。それが近未来の日本代表のプラスになることも確かだ。
一方の西村は、ご存じの通り、今季は横浜でセカンドトップとして結果を出している。森保監督もその流れを踏襲。香港戦ではトップ下で起用した。彼は町野の背後に陣取り、良い距離感を保ちながらプレー。持ち前の豊富な運動量を駆使し、前線を幅広く動いて敵をかく乱。2ゴールを奪った。22分の1点目は巧みな反転から右足を振り抜き、前半終了間際の2点目は遠目からのミドルを決め切っており、こちらもいろんなパターンからゴールできる能力の高さも示した。
「(ゴール前で脅威になれるところは)自信がありますし、自分の良さだと思うので。もっともっと強度は上げられる」と本人も前向きにコメントする。これまで森保ジャパンのトップ下を担ってきた鎌田大地(フランクフルト)や久保建英(レアル・ソシエダ)とは異なり、よりゴールに特化した動きができるところは大きな魅力と見ていい。
【PHOTO】A代表デビュー戦でいきなり2ゴール!忍者ポーズも披露した町野修斗!
加えて言うと、西村は最前線でもプレーできる選手。「(今回は)トップで使われるかは分かんないです。イメージも今のところない」とのことだが、トップに陣取った場合でも前からのプレッシングやハードワークで貢献しながら、鋭い切り替えでゴールに向かえるはず。そういった仕事は前田大然(セルティック)と重なるようにも映る。
トップ、トップ下のいずれに入っても、西村が推進力とゴール前への厚みをもたらせる存在なのは事実。それだけのキレと鋭さが今の彼からは見て取れる。森保監督も「もっと使ってみたい」という気持ちにさせられたのではないか。
このように幸先の良い一歩を踏み出した町野と西村。とはいえ、大舞台での経験が少なく、敵のレベルが上がった時にどこまでできるか未知数というマイナス面は否定できない。そんな2人にとって、最大の試金石になるのが、27日の韓国戦だろう。同じW杯出場国相手に、香港戦のような一挙手一投足を見せられれば、カタール行きの希望がかすかに見えてくるかもしれない。
「勝っている試合に出ているほうが良いアピールになる」と香港戦をテレビ解説していた元日本代表MFの松井大輔(YS横浜)も話したが、今の彼らは宿敵相手に強烈なパフォーマンスを示すことでしか、輝ける道をこじ開けられない。その立場をしっかりと自覚して、できることを一つひとつ確実にこなしていくことが肝要だ。
「自分としてはガツガツしているつもりなんですけど、そう見られていないってことは、もっとしないといけないと思う。しっかりガツガツ行きます」
町野は、元日本代表監督の岡田武史氏がテレビ解説で話した「もっと我を出せ」という意見に対し、こう語気を強めた。その鼻息の荒さをもっともっとピッチで出していい。西村にしても同様だが、新戦力は「自分が序列を変えてやる」と全身全霊を込めて示さなければ、何も変わらない。積み重ねが重視される森保体制ではなおのことである。
それをよく認識したうえで、彼らは残りのゲームで何ができるのか。既存FW陣と異なる強みを出せるのか。いずれにせよ、日本代表に新たなエッセンスをもたらすべく、ベストを尽くすことに集中してほしい。
取材・文●元川悦子(フリーライター)