現代版・超攻撃型サイドバック
カンセロは超攻撃的サイドバックの代表格だ。2020-2021シーズンには、従来のサイドバックの既成概念を大きく覆すほど、ピッチ上の様々なエリアに顔を出して攻撃参加。そのプレーぶりを”カンセロロール”と名付けられるほど、大きく話題になった。
そんなカンセロは現在はイングランドの強豪マンチェスター・シティでプレーしている。シティは現在、稀代の名将ペップ・グアルディオラが監督を務めており、ストイックな監督として有名な彼の信頼を得ることは簡単ではないが、見事左サイドバックの一番手としてプレーしている。
イタリア・セリエAで頭角を現す
2013-2014シーズン、ポルトガルの強豪であり育成の名門で知られているベンフィカで、カンセロはプロサッカー選手としてのキャリアをスタートした。そして翌2014-2015シーズン、弱冠20歳にしてスペインの古豪であるバレンシアに移籍。ステップアップに成功している。
しかし、バレンシア加入初年度は適応に苦しみ、出場機会を得られなかったが、2年目に突入すると右サイドバックのレギュラーに定着。カンセロ最大の武器は攻撃センスだったこともあり、サイドバックだけでなく時には一列ポジションを上げて右ウイングとして活躍を見せる試合もあった。
結果、チームは12位に沈むなど成績不振の中、カンセロは安定したパフォーマンスを見せ続け、シーズンの終わりにはポルトガルのA代表にも招集されるなど飛躍の1年となった。
バレンシアで一気に注目を浴びたカンセロは、イタリア屈指の名門インテルへローン移籍で加入する。シーズン序盤は怪我で出遅れるものの、復帰後は戦術家としても知られるルチアーノ・スパレッティ監督の信頼を獲得し、即座にスタメンへ定着。リーグ戦26試合1ゴール4アシストの活躍で、インテルの7シーズンぶりのチャンピオンズリーグ出場権獲得に大きく貢献した。
次なる活躍の場としてカンセロが選んだのは、当時セリエAを8連覇し、イタリアの絶対王者として君臨していたユベントスだった。移籍金は4040万ユーロ(約56.6億円)とサイドバックとしては異例の超高額だった。メガクラブ特有の大きな重圧に押し潰されることもなく、35試合1ゴール5アシストと1年目からチームの主力として活躍した。
イタリアで目覚ましい活躍を見せていたポルトガル人サイドバックに目をつけたのが、近年ものすごいスピードでタイトルを獲得しているマンチェスター・シティだ。当時シティでサイドバックを務めていたブラジル代表DFダニーロ+2800万ユーロ(約39.2億円)の大型トレード移籍という形で加入。加入1年目はペップの戦術やプレミアリーグの強度に苦しみ、らしさを発揮する試合は少なかったが、2年目以降はフィットしており、現在は新たなサイドバック像を確立するほどの活躍を見せている。
他を凌駕する圧倒的な攻撃性能
すでに述べているようにカンセロは非常に攻撃的なサイドバックだ。テクニシャンが多いマンチェスター・シティでも、チームメイトが「カンセロがチームで最も技術がある」と語っているほどだ。
一般的なサイドバックでは考えられないほどの超絶技巧を持ち合わせているからこそ、様々なエリアで前線の選手顔負けのプレーを見せられるのだ。激しいプレッシャーに晒されても顔色ひとつ変えることなく、持ち前の正確なボールタッチで相手を剥がし、逆に攻撃の起点となることができる。
また両足のキックの精密性も大きな武器の一つだ。左右遜色なくボールを扱うことができ、高精度のクロスで決定的なチャンスを演出する。右足のアウトサイドから繰り出される美しい軌道のクロスは、それだけで試合を見る価値があるほどだ。
一方でその攻撃的なプレースタイルの代償として、守備面には大きな不安を残している。攻撃時に前のめりなポジションを取るため背後には広大なスペースを残すだけでなく、対人戦で軽さを見せる場面も多々ある。
ただそんな欠点を補ってあまりあるほどの攻撃性能がカンセロにはあり、だからこそシティでスタメンを手にしているのだ。
カタールで初のW杯出場へ
20歳にしてポルトガル代表A代表に選出されるが、その後は激しいポジション争いに勝利できず2018年に開催されたロシアワールドカップは落選してしまった。
しかし、ロシアワールドカップ後、再び代表メンバーに名を連ねると右サイドバックのレギュラーとしての地位を確保。満を持して望んだユーロ2020(欧州選手権)であったが開幕直前に新型コロナウイルスの陽性反応を示したため代表から離脱し、またしても国際舞台での出場は叶わぬ夢となった。
ただ、彼の存在が必要であることは間違いない。というのも、現在ポルトガル代表の指揮官を務めるフェルナンド・サントス監督は受け身で消極的、戦術的狙いの感じられないサッカーで国内でも度々批判を浴びている。カンセロのような創造性に溢れ攻撃に幅をもたらしてくれるサイドバックは貴重な存在だろう。
現在も不動の右サイドバックとして活躍しており、UEFAネーションズリーグでは5試合2ゴール1アシストとFW顔負けの成績を残している。今回の2022 FIFAワールドカップ カタール(カタールW杯)では、悲願の国際舞台での活躍に向けて、気合十分のはずだ。
(文・熊谷和浩)