ワールドカップ開幕を控えたカタールでは、ちょっとした賃貸ブームが起きている。期間は11月から12月にかけての1か月間、部屋数の多いラグジュアリーな物件が人気。その借主の多くは世界的なサッカー選手たちだ。
 
 大会中、選手たちはもちろんチームで寝食を共にする。しかし家族はどこかホテルに泊まらなければならない。それなら、まるまる家を一軒借りてしまおうというのが、リッチな彼らの考え方だ。

 例えばアルゼンチン代表のエース、リオネル・メッシはすでに4月の時点で豪華なヴィラを借りている。大きなプールがあり、周囲から見えないような中庭があり、近くにあまり家もないので完全なプライベートを保つことができる。アルゼンチンが滞在するカタール大学からも近く、試合翌日などのオフ日には、メッシ自身も家族とここでゆったりリラックスして過ごし、次の一戦のために英気を養うこともできるというわけだ。ちなみにこの家の賃貸料は1か月12万5000ドル(約1800万円)だという。
 
 もう一人、いつも家族を近くに置いておきたいのはブラジル代表のネイマールだ。彼もすでに2軒の家をカタールで借りている。一つは家族用、もう一軒は友人用だ。そう、セレソンの10番が良いパフォーマンスをするには、家族だけでなく友人も必要不可欠な存在なのだ。2018年のロシア大会にも、彼は総勢18人の友人を連れて行っている。その中には2人の専属ヘアスタイリストも含まれており、彼らの旅費、滞在費はすべてネイマール持ちだ。

 今回も少なくとも10人の取り巻きをカタールに連れて行くつもりのようだ。ただしカタールの不動産の高さにはさすがのネイマールも驚いたという。彼が借りた家一軒の一週間の賃料は2万ドル(約300万円)。これは彼が想定していた金額の2倍だったようだ。

 家を借りてしまおうと考えるのはなにもメッシ、ネイマールだけではない。私の友人にアルゼンチン代表のアンヘル・ディ・マリアと関係がある旅行代理店をする者がいるが、彼はアルゼンチンやウルグアイ代表の選手たちに頼まれて、この4月に15日間カタールに滞在、9つの家の賃貸契約を結んだようだ。中でもディ・マリアの借りた家は一番大きく一日の賃料が6000ドル(約90万円)、代表の仲間の一人とシェアして家族を滞在させるつもりらしい。

 こうしたレンタルヴィラは、空き家というよりも、カタールの金持ちが現在使っている家であるケースが多い。自分たちの家をひと月だけ選手に貸すのだ。ほんのしばらく家を空けることで、大金を得られるばかりか、大会中の喧騒からも逃れられる。彼らにとっては一石二鳥というわけだ。カタール人の多くは、自国開催のW杯などあまり興味はないのだ。

 イングランド代表選手もすでに8つの家を借りているし、ドイツのある選手はバカンスを兼ねてこの夏、家の下見に来たという。また、日本が対戦するコスタリカの選手もすでに11のベッドルームある部屋を契約済みだ。
 それにしても、代表の最終メンバーがまだ決まらないうちに、高額な家を借りるのは一種の賭けでもある。自分が招集されない危険性もあるし、怪我をして参加できない可能性もある。それでも少なくない選手がこの春から家を確保しているのは、ドーハのホテル事情にある。ドーハのホテルの多くはすでに大会関係者やスポンサーで埋まってしまっている。押し寄せてくるだろうサポーターの数を鑑みると圧倒的にホテル不足だ。

 ちなみに代表チームにおいては大きく分けて2つの方法で滞在を予定している。例えばアルゼンチンのように大学などの施設を借り切るチーム。彼らが借りたカタール大学はフルサッカーコート2面、ジム、体育館があり、85床の宿泊施設ある。

 一方でブラジルなどのようにデラックスホテルに滞在するチームもある。彼らは1つのホテルを専有しないまでも、80%を借りきる。32チームの多くがこれをしたら、ホテルに一般客はほとんど泊まれなくなるだろう。

 そのためポルトガルやオーストラリアは、選手たちに連れてこられる家族は原則3人までと定めている。それ以上の場合はすべて自分たちで宿泊先などを手配しなければいけない。メッシやネイマールほどの高給取りでない選手たちには、家族の滞在先は悩みの種だ。
 
 反対に今回は家族を連れてこないという選手も少なからずいる。滞在先の問題もあるが、カタールの暑さ、物価の高さ、そしてなにより文化の違いから、あまり家族に危険を晒したくないというのが彼らの本音だ。

 とにかくカタールの不動産屋によると、この春までに、少なくとも100の豪邸の賃貸契約を結んだという。W杯の全期間は1か月だが、準々決勝までならば14日間だ。選手の中には半月だけ借りればいいという者もいたが、こうした業者は週割の値段を高めに設定し、できるだけひと月まるまる借りてもらえるように工夫している。

 家以上に問題なのは車だ。灼熱のカタールでは、車は必要不可欠だ(選手たちやその家族は公共交通機関で移動したがらないだろう)。しかし6月末の時点で、大会期間中の運転手付き車はすべて予約済みだ。それもレンタル料は一日に3000ドル(44万円)とかなりの高額になる。

 カタールには、ここぞとばかりに稼ごうとしている人々が少なくないようだ。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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