2022-23シーズンの各国リーグがFIFAワールドカップカタール2022に向けて中断期間に突入した14日。日本代表に新たに合流した1人が、絶好調のFW上田綺世(サークル・ブルッヘ)だ。
直近12日のシント・トロイデン戦で決勝弾を叩き出し、今シーズンのリーグ戦ですでに7ゴール。勢いに乗った状態で26人枠滑り込みを果たし、決戦の地であるドーハに乗り込んできた。
「ベルギーのサッカー文化が自分の想像以上に日本と違っていた。僕らのチームはより速く相手からボールを奪って、より速くゴールに迫るスタイル。その回数を増やしていく形です。つまり、攻守一体というか、守備をやることが絶対条件。与えられたポジションの中で強度を高めながら、自分の役割を全うすることが、ようやく形になりつつあるのかな」と上田は自信と手ごたえを口にしていた。
とはいえ、W杯を半年後に控えていた今年7月からのヨーロッパ挑戦はある意味、大きな賭けであった。鹿島アントラーズでの今シーズンはJ1前半戦だけで10ゴール。得点王獲得もあり得る状況だった。しかし、本人は「(Jリーグで)20点取って得点王になったとしてもW杯に出られるわけではない。海外でも活躍できるクオリティがないと活躍できない」とキッパリ断言。世界舞台が遠のくリスクも承知で、新たな環境に飛び込んだのである。
一方で、大胆なことをしなければW杯を掴めなかったのも事実。実際、当時の上田はまさに当落選上の1人だった。法政大学在学中の2019年、コパ・アメリカでA代表デビューを飾った彼も、最終予選は今年3月のオーストラリア戦と最後のベトナム戦に出ただけ。6月4連戦もガーナ戦1試合出場にとどまり、そのままけがで離脱と不完全燃焼な形のまま終わっていたからだ。
9月シリーズも招集され、エクアドル戦後半から45分間ピッチに立ったが、代表ゴールゼロという不本意な現実は変わらなかった。それでも、森保一監督が大迫勇也を選外にし、上田を抜擢したのは、サークル・ブルッヘで目覚ましい成長曲線を描いていたことが大きいはずだ。
移籍当初は周囲との連携や屈強で大柄なDF陣との駆け引きに戸惑い、ゴールへの道筋を見出すのに苦労していたが、9月以降は状況が一変。11月までの2カ月で6ゴールを固め取りするに至った。
しかも、冒頭のシント・トロイデン戦のように、縦パス1本に鋭く反応。2枚のDFのど真ん中を抜け出し、右足を振り抜くといったスピーディーな得点パターンも身に着けた。これならば、浅野拓磨や前田大然と同じ土俵でも互角以上の勝負ができるかもしれない。23日のドイツ戦でのスタメンの可能性もあるのではないだろうか。
しかしながら、本人はそこまで楽観視していない。「ベルギーで調子がいいから、こっちでも同じようにできるとは僕は考えていない」と語るのだ。
「違うチームに入って違うポジションをやるということで、プレー自体も別のものになると思うんです。ただ、高強度の中で出せるパフォーマンスは日本にいた時より少なからず上がっている。その上で、自分の特長をチームの戦術に乗せられれば」と、日本代表の戦術に適応することをまずは最優先に考えていくという。
長時間ボールを支配されるであろうドイツ戦とスペイン戦で森保監督が採ろうとしているのは、アメリカ戦で見せたようなハイプレス戦術なはず。となれば「鬼プレス」と称される前線からの凄まじいチェイシングができる前田が有利に違いない。
けれども、前述の通り、上田も守備意識は格段に上がっているし、ボールを奪う能力にも磨きがかかっている。その上でフィニッシュの精度を発揮させれば、現代表FW陣の中ではトップクラス。ゴールのバリエーションも多い。それだけのポテンシャルを備えた絶好調男を今、使わないのはもったいない。
その上田にとって大きな試金石となるのが、17日のカナダ戦だ。本番前最後のテストマッチは、W杯初戦のメンバー構成を大きく左右する。特に4年前のパラグアイ戦では結果を出した香川真司、乾貴士、柴崎岳といった面々がチャンスを掴み、ロシアでの大活躍につなげた。上田もまだ手にしていないA代表初ゴールという結果を残せれば、何かが変わるかもしれない。
「どんな戦術であれ、あくまでもFWなので、本質は点を取ること。そこは絶対にやっていきたい。そのためのアプローチとして自分の武器があるので、チャンスは逃さないようにしたいし、動き出しの武器も出したい。もしかしたら戦術やセオリーを破っても出すタイミングが出てくるのかなと。チームの結果を求める上ではそういう部分も必要と思っています」
このように9月シリーズの際に話していたことを遂行するとしたら、まさに今しかない。カナダ戦では兎にも角にも、上田綺世の豪快な一撃を見せてほしいものである。
取材・文=元川悦子