「僕は恥ずかしくも何ともなく言いますけど、世界一のキーパーになりたいとずっと思っています」

 権田修一が清水に加入した昨年、彼にインタビューした際に聞いた言葉だ。

 その一方で「外国人の中に入ったら、パワーもスピードも、反応も技術も高いわけじゃない。その中で自分が上り詰めようと思ったら、足りないことだらけだと思います」とも言う。

 自分の足りないところは客観的に認めながらも、だからといって自分に限界を設定することはない。足もとや周囲の状況は冷静に把握しつつ、目線は常に前に、上に向けながら、自分の能力を1つずつ着実に高めていく。

 それが33歳となった今もGKとして日々成長を続けている原動力となっている。

 もちろん今年になっても、その姿勢が変わることはない。そのなかで今季、特に進化が見えたのは、ビルドアップに関与する部分だ。

 元々、彼自身は「鳥栖にいた頃まではキーパーがビルドアップに関わる意味はないと本気で思っていたんですよ。リスクも大きくなるので」という考えだった。
 
 だが日本代表で森保一監督にビルドアップへの関与を求められるようになり、ポルトガルでは長短のキック技術を磨くことに力を注ぎ、清水に来た昨年はロティーナ監督の右腕であるイバン・パランココーチから組み立ての理論的な側面も学んでいった。

 そして今季は、ゼ・リカルド監督が就任してからビルドアップへの参加をより強く求められるようになり、これまでの積み重ねを開花させている。

 ロングボールに頼ることなく、確実につなげる選手にボールを渡しつつ、攻撃のスイッチとなる縦パスも供給する。また相手が前掛かりになってきたら、それによって空いたスペースにミドルやロングのピンポイントパスを届ける。

「最初はパスが来たら怖くて視野が一気に狭くなっていました」と言う権田だが、今は近いところも遠いところも俯瞰的に見えるようになってきている。

 試合の状況によっては、後ろからつないでいくことを重視すべき時間帯もあるし、長いボールを増やしても良い時間帯もある。そのあたりの状況判断も含めて、権田のビルドアップ面での進化は、森保ジャパンにとって大きなプラスとなるはずだ。

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 ただ、今季の清水はリーグで3番目に失点が多く、特に試合終盤やアディショナルタイムの失点が多かったことは、日本代表GKにとっては屈辱的な結果だった。

 だが、権田自身のシュートストップに衰えが見えたわけではない。むしろ神がかり的なセーブも多く、GKが権田ではなかったら、清水の失点はもっと増えていたことだろう。

 それでも最終節・札幌戦でJ2降格が決まった後、「エスパルスに関わる全ての方々に申し訳ない」と語った権田。だからこそ、ワールドカップを通じて清水サポーターのプライドを少しでも取り戻したいと考えている。

「テレビとか印刷物とか電光掲示板とか、いろんなところで清水エスパルスという名前を世界中に発信できるのは、僕の中では本当に嬉しいことなんです。自分が応援しているクラブの選手が、世界のトップ・オブ・トップの場でプレーすることを誇りに思ってもらいたいなと思っています」

 そうした清水サポーターへの想いと同時に、GKに憧れる子どもたちを増やしたいという想いも以前から強く抱いている。
 
「僕がサッカーを始めた頃に、(川口)能活さんがアトランタ五輪でブラジル相手にあれだけ(決定機を)止めていた映像を見て、『キーパーってすげえな』って思いました。

 子どもたちや普段サッカーを見ない人たちが見るのがワールドカップなので、『うわ、キーパーってかっこいいな』と思ってもらうのに一番説得力があるのは、シュートを止めてゴールを守る姿だと思います。シュートを1本も受けずに勝ち上がれるのが一番ですけど、そう簡単ではないので、そこの部分でしっかり見せていけたらと思っています」

 オーバートレーニング症候群や怪我で前回のロシア大会には間に合わなかった。2大会ぶりの出場を勝ち取るために、失点の多いチームを立て直して自身も成長するために、清水への移籍も決断した。思うような結果は残せなかったが、自分らしさは貫き通して成長につなげてきた。

 想いの強さ、信念の強さから湧き出るここ一番の圧倒的な集中力。そこは権田が憧れた川口能活と共通する特質でもある。また、それこそがワールドカップという大舞台でもっとも求められるGKとしての武器なのではないだろうか。

取材・文●前島芳雄(スポーツライター)