カタール・ワールドカップ前最後のテストマッチで、日本はカナダに1-2で敗れた。ただ、怪我明けでコンディションに不安があった板倉と浅野を先発で試せたのは良かった。

 板倉は球際で恐れず、敵に強く身体をぶつけて気迫の守備を見せていたし、素早く相手との距離を詰めてしっかり足を出せていた。怪我明けなのに、よくこれだけ短期間で良い状態に持ってこれたと思うよ。ディフェンスラインやボランチをこなせる板倉を使える目途が立ったのは、チームにとって非常に大きいね。

 浅野も怪我を引きずっているような感じがまったくなかった。先制点でも、浅野が引いてカナダの最終ラインを上げさせたことで、背後にスペースが生まれ、相馬の得点に繋がった。効果的なランニングで存在感を示していた。

 また今回の試合では、柴崎の“らしさ”が久々に見られたね。少し消えている時間もあったけど、1点目のアシストを含めて、数々の質の高いパスには本当に驚かされた。

 惜しくもシュートはポストに弾かれたけど、終盤の山根の決定機を演出したスルーパスも見事だった。前線に抜け出した山根の右足に向かって正確にラストパスを出したけど、あれが1メートル前だったら追いつけないし、1メートル後ろだったら相手に触られてしまう。絶妙な速さのボールを、トップスピードで走っている選手の足もとに正確に出せる。彼のパスの精度は素晴らしいね。
 
 そのほかにも、ワンステップでのサイドチェンジで大きく展開したりと、攻撃にリズムを生んだり、流れを変えるプレーを見せていた。ワールドカップの26人に残った意味を柴崎自身が証明したゲームでもあったかなと思う。個人的には今日の働きを称えたい。

 チームとしては今回、前からの守備に注目していた。9月のヨーロッパ遠征では、2-0で勝利したアメリカ戦を見ても、前線からのプレッシングがうまくハマっていた印象だった。

 ワールドカップの同じグループにはドイツとスペインがいる。相手にボールを持たれる時間が長くなると予想されるなかで、押し込まれた状況でどう攻撃を機能させるか。そこを想定して走力のある前田や浅野をメンバーに加えて、前から積極的にプレッシャーをかけることで、相手のミスを誘ってショートカウンターから得点を奪う、という戦い方に割り切っていたはずだった。

 でもカナダ戦では、サイドの久保と相馬、センターフォワードの浅野で、相手の最終ラインにボールがある時に、どっちに追い込んで、どこで奪うのかが曖昧だった。本番が数日後に迫った状況で、9月のような戦い方が今日のゲームで見られなかったのが、私には理解できない。
 
 それと、不必要なファウルが多かったのも気になった。最後にペナルティエリア内で山根が相手を倒してしまい、PKを献上して逆転ゴールを決められてしまった。押し込まれていた前半も両サイドでFKを与えては、セットプレーから危ない場面を作られていたよね。いかに反則を取られないように粘り強い守備をするかが重要。ファウルの数が多いと、ワールドカップでは上に行けないよ。

 敵陣でカウンターを狙いに行ってファウルを取られる分にはいいけど、自陣でブロックを作って守っているなかでのファウルは致命傷。ドイツやスペインといった強豪国を相手にするならなおさら、セーフティに守る上手さが必要だ。

 終盤には1-1の状況で、これ以上失点をしないために、南野に代えて吉田を投入し、4バックから3バックに変更したね。相手の2トップに対し、3センターバックで数的優位を作ったことで、しっかりビルドアップができるようにもなった。
 
 それなら4バックの時にも、2枚のセンターバックの間にボランチが1人下りて、数的優位を作ることができたはず。ダブルボランチの片方が必ず下りるという決め事や、選手間の共通理解を高めていく必要がある。

 本大会の初戦で戦うドイツは、最近の試合を見ても、格下との試合で接戦だったりと、あまり調子が良くないようだね。付け入る隙はあるはず。日本の選手には、スペインを含めて大国としての歴史は尊重すべきだけど、相手をリスペクトしすぎないメンタルの整理も大切だ。

 ドイツを相手に勝ち切るのは難しいけど、簡単に負けない力を日本は持っていると思う。とにかくしっかりコンディションを整えて、できるだけ26人全員がピッチに立てる準備をして、23日の初戦を迎えてほしいと願うばかりだ。

【著者プロフィール】
金田喜稔(かねだ・のぶとし)/1958年2月16日生まれ、64歳。広島県出身。現役時代はドリブルの名手として知られ、中央大在学中の1977年6月の韓国戦で日本代表デビューを飾り、代表初ゴールも記録。『19歳119日』で記録したこのゴールは、現在もなお破られていない歴代最年少得点である。その後は日産自動車(現・横浜)でプレーし、1991年に現役を引退。Jリーグ開幕以降はサッカーコメンテーター、解説者として活躍している。

【動画】柴崎岳の絶妙パスに相馬勇紀がワンタッチで合わせた日本の先制弾