ダブルボランチの主力を欠く中で見せた柴崎岳の“らしさ”

遠藤航(シュトゥットガルト)と守田英正(スポルティング)という中盤の主力二枚を欠く状況で、柴崎岳(レガネス)は改めて存在感あるパフォーマンスを示した。大舞台に必ずアジャストしてくる選手ではあるが、こうした厳しい状況でも自分がチャンスを生かすというより、チームのために何をするべきかを見極めて、最適解を探していく。そうした能力に優れた選手だ。

【映像】プラン通りに行かない。無駄な議論はいらない

カナダ戦はチームのためにやるべきことと柴崎の持ち味がリンクした。ボランチのコンビを組む田中碧(デュッセルドルフ)の良さを出させるべく、自分はワイドな動きを制限して、中央でバランスを取りながら機を見極めて縦パスや正確なサイドチェンジを繰り出していく。

「(田中碧は)ある程度ボールを受ける場所を探して、活発に動くタイプなので。そこら辺は自由に動かせしてあげて、自分は中央に陣取ってバランスを見るようにしていた。うまくできいる状況もあるし、ちょっと崩れていた時もある」

柴崎にもボランチとしての引き出しはあるが、とにかく自分の特長をどんどん主張するというより、相棒の選手や周りのタイプに応じてアダプトさせていく。相馬勇紀(名古屋グランパス)のゴールをアシストしたシーンは「ユウキがうまく抜け出してくれたので、僕のパスをうまく引き出してくれた。すごく良い動きだったと思います」と、まず決めた相馬を賞賛した。

少し詳しくシーンを説明すると、相手GKのロングキックを田中が中盤で競ったボールをセンターバックの谷口彰悟(川崎フロンターレ)がワンタッチで中盤の柴崎に付けた。そこから柴崎はいきなり背後を狙うのではなく、トップ下の南野拓実(モナコ)に当てて、リターンをワントラップしてから背後に浮き球のパスを出している。

その先、1トップの浅野拓磨(ボーフム)は最初オフサイドのポジションにいたが、柴崎がワンテンポ遅らせる間に、引く動きで相手センターバックのビトーリアも引き付けたのだ。それにより、もう一人のセンターバックであるミラーが孤立した脇から相馬が飛び出して、柴崎のパスに足を伸ばして触ったボールがGKを破った形だった。

そのシーンでの意図について柴崎に、少し突っ込んでシーンを振り返ってもらうと「そこまで深くは考えてなかったですけど」と前置きしながらも具体的に答えてくれた。

「タクミが前向いても良かったですし、あとは相手が来てたので、リターンした時に顔が上がった時にユウキが動き出してくれていたので。ワンテンポ置いて出せた分、ユウキが動き出すタイミング、時間が生まれたかなと思います」

そうした、うまくいったプレーに関しては「そこは周りの方が評価というか、思ったことを言ったりとか書いてくれたら良いだけ。個人的にもそこは良かったと思いますけど、他の部分もある。トータル的に見ていきたい」と冷静に受け止める。本番に向けて、この試合で何を収穫に、何を課題にして残りの時間で詰めていくのかが大事だ。
 

やはり柴崎岳は”森保ジャパン”に欠かせない チームリーダーの一人としての重要性を改めて示した

柴崎岳がプレーすることの意味「自分はゲームメイカー」

柴崎は試合中のゲームコントロールも強く意識している選手だ。たとえばボールを奪えてショートカウンターを繰り返しトライできる時間帯でも、チームに落ち着きがなくなって、攻守の間伸びが生じたり、ボールロストから危険なカウンターを受けやすい状況なら、一度ボールを落ち着かせることも選択する。

「それが合ってるか、正解か不正解かはわからないですけど、個人的にはそれが良いと思って判断して、指示とかコミュニケーションを取っている」

そう語る柴崎は若い時から「自分はゲームメイカーだと思っている」と語っていた。ただ、現代サッカーではどんどん全体の強度が上がる中で、誰か一人がゲームを動かすよりも、全体で共有しながら即時に行動していくことが求められるようになってきたのは柴崎も認識している。だからこそ、日頃からコミュニケーションを取りながら、ちょっとした声かけでも、試合に起こりうることに対応していける。そうしたチーム状況を作っていく上でも、やはり柴崎は”森保ジャパン”に欠かせない存在なのだ。

ここから数日間で、そんなに大きく何かを変えることはできないという認識の中でも、ドイツというカナダとはまた違う相手にベストのパフォーマンスを出していく、さらにコスタリカ戦、スペイン戦と続いていく大舞台の戦いで、良かった面ばかりを追っても意味が無いし、悪かった面ばかり強調してもバランスを失ってしまう。そうした感覚を備えているからこそ、この段階で周りがどう評価しようと、柴崎のスタンスが変わることがない。

守備面に関しては高い位置でボールを奪うためのプレーは柴崎も田中も目を見張るものを出していたが、やはり崩れかけた時に遠藤と守田のコンビのような無理を利かせる守備というのはあまり期待できない。それだけに、より周りとの共通理解が必要になってくる。基本的には遠藤も守田も順調に回復して、森保監督がまずは3試合それぞれのベストチョイスをしていくベースが整うのが理想だ。ただ、そうならないリスクもある中で、終盤にトライした鎌田大地(フランクフルト)のボランチ起用も含めて、コンディションの良いメンバーが出せるベストを見出していくしかない。

チームの先頭を走るリーダーシップ

そうした意味で、柴崎が”森保ジャパン”でしっかりと立ち位置を示したことは高評価できる。そしてもうひとつ、やはりチームリーダーの一人としての重要性を示した試合でもあった。チームキャプテンの吉田麻也(シャルケ)がベンチスタートとなり、これまで何度かキャプテンマークを巻いた遠藤もカタール居残りで欠場したカナダ戦、柴崎はキャプテンマークを巻いてピッチに立った。

キャプテンマークに関しては選手によって、いろんな受け止め方がある。もちろん中には「ただ、巻いているだけ」と答える選手もいるが、柴崎は「特別なものだと思いますよ」と即座に回答した。

「責任感もありますし、それを任せられるということは、監督から信頼だったり評価をされていないと巻けないものだと思ってるのでそこを真摯に受け止めて、チームのためになることをやりたいと常々思ってるので」

キャプテンマークを巻いていなくても、チームのために何ができるかを考えて、率先してランニングの先頭を走り、練習中も選手たちと積極的にコミュニケーションを取って、問題点を解決する。そうしたことの積み重ねが森保監督の評価となり、この試合でキャプテンマークを任される流れになった。85分から入った吉田に柴崎はキャプテンマークを渡した。それはとても自然な光景だったが、彼の腕にキャプテンマークは無くても、リーダーシップは変わらない。

文・河治良幸
 

写真:ロイター/アフロ