カタール・ワールドカップ(W杯)の日本代表メンバー発表で、森保一監督が「難しい選択になった」と発言したように、オーストラリア代表のグレアム・アーノルド監督も難しい決断を迫られたはずだ。

 例えば、W杯予選に出場し、メンバー入りも予想されていたが選外となったFWアダム・タガート。セレッソ大阪加入後は怪我に苦しみ、2019年に水原三星でKリーグ得点王に輝いたシーズンのようなプレーは見せられずにいたため、落選は理解できる。

 しかしなぜ、名古屋グランパスのGKランゲラックは選ばれなかったのだろうか。

 ランゲラックは昨年、「オーストラリア代表の活動を行なうと、新型コロナウイルスの感染症対策などの厳しい制限で家族と長く離れる可能性がある」と、代表引退を表明していた。しかし、今年9月に行なわれたニュージーランド代表との親善試合のメンバーには選出され、復帰を果たしたばかりだった。

 この試合には出場しなかったものの、彼の代表復帰は、本大会メンバー入りを確信させるものだった。しかし、発表されたメンバーリストに彼の名前はなく、GKはマシュー・ライアン(コペンハーゲン)、アンドリュー・レッドメイン(シドニー)、ダニー・ヴコビッチ(セントラルコースト)が選ばれた。

 レギュラーのライアンの選出には納得できるが、ランゲラックではなくレッドメイン、特にヴコビッチの選出は、オーストラリア国民とメディアの大多数にとって衝撃的なニュースになった。
 
 この発表に元オーストラリア代表のトミー・オール氏は「実力で選考していない」と批判し、マーク・シュウォーツァー氏も「奇妙」だと述べた。

 アーノルド監督は、メンバー発表の直後にランゲラックの落選理由について質問されると、以下のように答えている。

「私はGKの専門家ではありません。我々にはジョン・クローリーという素晴らしいGKコーチがいて、彼はGKについて非常に理解しています。彼のプロセスを信用しなければいけません。

 ミッチ(ランゲラック)は素晴らしい男で、優秀なGKです。彼を(9月に)呼び戻したのは、もし他のGKの誰かに何かあったらどうするのかと考えたからです」

 決断はクローリーGKコーチによって下され、ランゲラックは怪我人などが出た場合のみ選ばれる可能性があったと推測できる。
 
 しかし以前、オーストラリアがW杯出場を決めた直後にアーノルド監督は、「選手たちにも言ったが、本大会のメンバー入りは、誰も保証されていない。すべては彼らの実力、準備が整っているかどうかだ」と発言していた。

 また9月のニュージーランド戦の前には、「メンバーの26人に入るチャンスをできるだけ多くの選手に与える」と言葉を残している。

 指揮官は、苦しいW杯予選をともに戦った“愛着”のある選手だけで本大会のメンバーを選ぶわけではないようであった。にもかかわらず、GKに関して言えば、アーノルド監督とクローリーGKコーチは、明らかにその“愛着”に基づいて選んだ。

 実力を考えれば、ランゲラックはオーストラリア屈指のGKだ。長年に渡り、先発GK兼キャプテンに値することを証明してきたライアンに何か起こった場合、ランゲラックは完璧な代役になりうるはずだ。
 
 ペルーとの大陸間プレーオフでもヒーローとなった、PKのスペシャリスト、レッドメインは、PK戦までもつれた場合に出場できる。しかし、第3GKのヴコビッチがプレーする可能性は低いだろう。もし代わりにランゲラックが入っていれば、チーム内で明確な役割を持つゴールキーパーが3人になったはずだ。

 アーノルド監督をはじめとするコーチ陣の判断には一貫性がなく、説得力に欠ける。このことが、W杯本番での監督の采配や戦略に反映されないことを心から願う。フランスやデンマーク、チュニジアと難敵が揃うグループステージで、ライアンとその代役GKのパフォーマンスには注目したい。これ以上、ランゲラックが代表に選ばれるべきだったということが明白にならないよう祈るばかりである。

文●スティーブン・トムソン

[プロフィール]
スティーブン・トムソン/1993年生まれ、オーストラリア・アデレード出身。アデレード大学を卒業後に来日し、上智大学で日本語を学ぶ。日本のスポーツと文化に精通し、今春からサッカーダイジェスト海外編集部員に。好きなサッカークラブはアデレード・ユナイテッド、リバプール、そしてガンバ大阪。

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