カタール・ワールドカップで、日本のグループステージ初戦の相手であり、過去4度の優勝を誇る強豪ドイツ。彼らは11月17日にオマーンからカタールに到着し、ベースキャンプ地のアル・ルワイス入り。18日から練習を開始した。

 同地はドーハから約100キロ北上したペルシャ湾に近いカタール北岸の町。日本やコスタリカがアクセスを重視してドーハ中心部から遠くないエリアに拠点を構えるのとは対照的に、ドイツは喧騒を離れて静かに集中できる環境を選んだ。

「この施設は非常に快適で全てが揃っている」とチームマネジャーを務める元同国代表FWオリバー・ビアホフ氏も会見で強調した。彼らは「(ハンス・)フリックのカーテン」を引いて入念に調整を行なっているのだ。

 練習場のアル・シャマールSCのスタジアムは、まるで要塞のような雰囲気。外からは全く見えない城壁に囲まれ、情報漏れの心配は一切ない。

 ここにマヌエル・ノイアーやヨシュア・キミッヒ(ともにバイエルン)、カイ・ハベルツ(チェルシー)らスター選手たちが続々と登場。怪我で直近5試合を欠場していたトーマス・ミュラー(バイエルン)や、10月に負傷したアントニオ・リュディガー(レアル・マドリー)も全体練習に合流。フルメニューをこなした模様だ。
 
 この日、欠席したのは、16日のオマーン戦で決勝点を挙げた29歳の遅咲きFWニクラス・フュルクルク(ブレーメン)1人だけ。それも風邪というから、そこまで深刻ではない様子だ。

 遠藤航(シュツットガルト)、守田英正(スポルティング)という主軸ボランチの出場可否が微妙となっている日本に比べると、敵国のチーム状態は確実に上がっている様子。オマーンで苦しんだ時差と暑さに関しても徐々に解消に向かっているといい、23日には確実にフィットした状態で挑んでくるはずだ。

「これまでのワールドカップはシーズン終了後の開催だったため、一からコンディションを作る必要があったが、今はシーズン真っ只中。選手たちはトップ状態にあり、チームとしても通常のリーグやインターナショナルデーの試合を行なうように戦える」とビアホフ氏も自信をのぞかせる。

 となれば、彼らが大苦戦したオマーン戦のような停滞感を漂わせることはなさそう。日本にとっては有難くない状況と言える。

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 練習後には、キャプテンのノイアーとユスファ・ムココ(ドルトムント)が記者会見。ムココは20日が18歳の誕生日ということで、ノイアーは「自分の18歳の時は(シャルケの本拠地)ゲルゼンキルヘンにいたよ」と笑い、若き才能の国際舞台デビューに驚きと敬意を示していた。

 そして「トーナメントを勝ち上がっていくうえで初戦は非常に重要」と強調。その相手、日本に対しては「抜群の走力があり、中盤がアタッキングゾーンに飛び出していく力を備えていて、前線のアタッカー陣にもスピードがある。そしてポジショナルプレーが得意」とリスペクトを払っていた。

 そういった前向きな評価を口にするのも、シャルケ時代の同僚・内田篤人を筆頭に、近年、数多くの日本人選手がブンデスリーガで活躍していることを熟知しているからだろう。

 そのうえで「日本で最も警戒すべき選手は誰か?」という筆者の問いに対し、「鎌田(大地=フランクフルト)」と即答。「彼は素晴らしい選手。日本にとって重要で、我々にとって危険な選手。FWの後方やゴール前でもプレーでき、スペースに侵入する鋭さ、高度な得点力を兼ね備えている」とキッパリ言い切った。

 鎌田自身は「ドイツはメンバー的には豪華だけど、バイエルンも今までみたいに上手くいっていないし、所属クラブで苦しんでいる選手もいる。本当に強かった時のドイツとはまた違う。僕たちも勝てる可能性はあるのかな」と自信をのぞかせていたが、ドイツの凄まじいマークをかいくぐることができるのか。ノイアーを中心に結束して向かってくる相手の出方が気になるところだ。

 日本にとって気になるのは、ドイツの先発だ。特に本命不在の1トップ、流動的な2列目の構成は注目すべき点である。1トップに関してはハベルツが最右翼だが、ムココの抜擢がないとも言えない。
 
 その場合は、ハベルツはトップ下に下がることになるが、そこもミュラーがいる。W杯4大会連続出場の大ベテランの経験値をどう活かすのか。1つのポイントと言えるだろう。

 2列目のサイドにしても、ジャマル・ムシアラ、セルジュ・ニャブリ、レロイ・ザネらバイエルン勢を並べるのか、右にヨナス・ホフマン(ボルシアMG)を入れるのか、予想が難しい。

 ビアホフ氏も「フリック監督は数多くの選択肢を持っているので、いろんなバリエーションが考えられる。監督というのは試合当日の朝起きて、ひらめいたメンバーを起用することもある。ギリギリまで判断を待つことになるだろう」と指揮官の思惑を代弁する。

 いずれにせよ、誰が出てきても、強烈な個の力を備えているのは紛れもない事実。彼らがここからどうギアを上げてくるのか。森保一監督らスタッフは難敵の出方を見極めながら、幅広いパターンを想定し、準備を進めていくしかないだろう。

取材・文●元川悦子(フリーライター)