現在のブラジル代表で最大のスターは、やはりネイマールだ。南アフリカ・ワールドカップ(W杯)直後の2010年8月に代表デビューを飾って以来、長きに渡ってエースの座を担ってきた。代表通算の75ゴールは、最多得点記録を持つ国民的英雄ペレにいまや2点差。レコード更新は時間の問題で、カタールW杯でその大偉業を成し遂げても不思議はない。
 
 とはいえ、「サッカー王国」の象徴とも言えるキング・ペレの人気に比べれば、まだまだ。悪い評判すら聞いたことがないレジェンドの域には、到達できていない。
 
 実際、17年夏にバルセロナからパリSGに移籍した際には、「キャリアよりカネを優先した」と国内でも否定的な意見が多かったし、18年W杯でシミュレーションを繰り返して醜態を晒した4年前は、国民から痛烈な批判を浴びた。
 
 近年は故障が多く、調子の波も大きい。それでも、22年W杯予選のホームゲームの試合前、先発メンバーの名前がアナウンスされたときに、誰よりも大きな歓声を浴びていたのは、この男だった。
 
 急速に株を上げているのが、次代のエース候補と目されるヴィニシウス・ジュニオールだ。その爆発的なスピードとエネルギッシュなプレーで観客を沸かせている。ただ、ブラジル人が好むマジシャンのような超絶技巧の持ち主ではないため、今後、ロナウジーニョやネイマールほどの人気を獲得できるかは未知数だ。
 
 トップ3のもうひとりは、リシャルリソンだろう。時にはウイングとして、時にはCFとして結果を残してきた万能型FWのトレードマークと言えば、胸を突き出し、両手を腰に当てて進む「鳩歩き」のゴールセレブレーション。ブラジル人は、こういう茶目っ気のある男が大好きだ。

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 キャプテンのマルキーニョスも、多くの支持を集めるひとり。甘いルックスがその理由ではない。フットボーラーとしての純粋なクオリティーを、国民は高く評価している。現セレソンを支える守備の主軸で、精度の高いロングフィードとセットプレーからの得点で攻撃面でも貢献する世界的CBは、その地位と人気を着実に高めてきた。
 
 勢いではヴィニシウスにも負けていないラフィーニャが5位。昨年10月のW杯予選3連戦で2ゴール・2アシストと鮮烈な代表デビューを飾ると、スピードとテクニックを駆使したドリブルと高い決定力でその後も期待に応え、右ウイングのレギュラーに上り詰めた25歳は、今夏にバルセロナ移籍も果たし、まさに時の人。今後の活躍次第では、さらに人気が高まるだろう。
 
 伝統的にブラジルでは、超絶的な技術や創造性で魅了するアタッカーが人気だ。ペレ、ガリンシャ、ジーコ、ロナウジーニョがその典型で、加えて、貧困家庭出身の悪童も大衆から愛される。ロマーリオ、エジムンドなどがこのタイプだ。
 
 練習が嫌いで、夜遊びが大好き。クラブ首脳、監督、チームメイト、対戦相手、さらにはメディアからファンまで誰にでも喧嘩を売るが、ここぞの場面で決定的な仕事をしてチームに勝利をもたらす。そんな天才肌の"ワル"が喝采を浴びる。
 
 しかし、最近はこの手のブラジル人選手が減っている。そのことを嘆くファンは少なくない。
 
取材・文●沢田 啓明
text by Hiroaki SAWADA
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2022年9月15日号より転載