【識者コラム】強豪ドイツ撃破、終盤まで戦術的な意図が見えるシステムチェンジを実行
日本代表はカタール・ワールドカップ(W杯)のグループリーグ初戦でドイツ代表に2-1で勝利。幸先よく勝ち点3を獲得した。森保一監督はスタートから後半、終盤まで戦術的な意図が見えるシステムチェンジをすることで、ドイツを上回る結果を掴んだ。
ただ、前半はDF長友佑都が「ドイツが思った以上にうまいポジションを取ってきた」と明かすように、デュエルもなかなかさせてもらえない状況で、多くのチャンスを作られた。日本はボールの奪いどころを見出せず、攻撃のスタート位置が低くなったこともあって、チャンスも立ち上がりにMF鎌田大地からMF伊東純也、FW前田大然とつながってオフサイドになったシーンを除くと、ほとんどチャンスが作れなかった。
前半はドイツに押し込まれかなりラインも低くなるなかで、左サイドバック(SB)のDFダビド・ラウムがウイングのようなポジションを取ってきた。ドイツの右SBは本職がセンターバック()のDFニクラス・ズーレで、攻撃時は左肩上がりになる。
それに応じてMF伊東純也が下がり気味で、DF酒井宏樹と距離を近くしてラウムやMFジャマル・ムシアラをケアしていた。前半31分にPKを与えたシーンは伊東も酒井も中に絞ってしまい、MFヨシュア・キミッヒのサイドチェンジを受けたラウムを誰もケアしていなかったところに、GK権田修一がカバーに行った結果のファウルだった。
一方でトップ下のMFトーマス・ミュラーが時折、MFセルジュ・ニャブリとポジションチェンジもしながら、嫌らしいポジショニングでフリーになっていたのでMF久保建英の守備が浮いてしまい、逆にMF田中碧がミュラーに翻弄されるところもあった。それでも権田の攻守やディフェンス陣の踏ん張りに加えて、伊東や田中の対応が日本の傷口を最小限にとどめたことは確かだ。
森保一監督がこの時点で動かなかった意図について、敵将のハンジ・フリック監督にハーフタイムで具体的な対策をさせないためという想定はできる。その真相は森保監督も特に明かしていないので不明だが、エビデンスとして後半のドイツが日本のアグレッシブな3バック(5バック)への対応に困る結果になったのは確かだ。
ドイツのビルドアップに規制、できるだけ高い位置からカウンターを狙う
ここで森保監督が後半スタートからとったシステムが3バックなのか、5バックなのかという定義はあまり意味を成さない。あくまでドイツのビルドアップに規制をかけて、できるだけ高い位置から奪ったらカウンターを狙うというプランで、後半から入ったDF冨安健洋を左CB、DF吉田麻也が中央、DF板倉滉が右CBを担った。
うしろのレーンを埋めながら前にプレッシャーをかけるという意味では5バックと取ることもできる。選手の中でも表現はまちまちだが、ここでは3-4-2-1としたい。やはり前から守備に行くなかで、シャドーの選手がセンターフォワードと連動しながら、ワイドに開いたCBにプレッシャーをかけるというのが重要な意味を持っていた。
そして同じシステムのまま左に後半12分から投入されたMF三笘薫が左ウイングバック、さらには同26分からピッチに立ったMF堂安律がシャドーに入るとMF鎌田大地がボランチに。同30分にはMF南野拓実がシャドーに投入され、今度は伊東が右ウイングバックに回った。
このシステムと配置が見事にはまる形で、日本は三笘の仕掛けから南野がシュート性のクロスを出したボールをGKマヌエル・ノイアーに弾かれたが、堂安が冷静なシュートで同点ゴール、さらに板倉のロングパスからFW浅野拓磨が見事なフィニッシュで逆転ゴールを決めた。そのあとは吉田キャプテンが森保監督と確認するシーンも見られた。そこから終盤はほぼ明確な5バックにして、5-4-1のブロックを敷きながら、ボールを奪えばスペースに持ち出すなど、うまく時間を進めた。
後半アディショナルタイムが7分と掲示されたが、板倉は「サウジ戦もそうでしたし、そういう覚悟はしていた」と振り返る。それでもセットプレーからGKノイアーが攻撃参加してから試合終了のホイッスルが鳴るまでは、かなり長く感じたという。最後は試合に出なかった選手もピッチ内に駆け寄って歓喜の輪を作った。森保監督のプランニング、選手の実行も見事だったが、やはりチームとして勝ちに行く一体感があったからこそ、ドイツに勝利するための90分を完結できたのだろう。(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)