【ドイツ発コラム】ドイツ国内における日本勝利への“リアルな声”

 11月23日に行われたカタール・ワールドカップ(W杯)のグループリーグ第1戦、日本代表がドイツ代表を2-1で下した。ドイツの人たちはどんな反応を見せていたのだろうか。現地からリアルな声を集めてみた。

 僕はフライブルク郊外にある地域クラブで監督をしている。試合があったのはドイツ時間の14時。その日は19時半からU-19の練習があった。

 普段はトレーニング前の時間では練習開始の時間までそれぞれにボールを蹴ったり、パス回しをしたり、ロンドをしたり何をしていてもいい。こちらもトレーニング準備があるので、近づいたら挨拶したり握手したりするけど、離れたところで蹴っている選手とは集合して円陣になる時に挨拶や握手をする。

 でもこの日は違った。トレーニングへ行くとグラウンドにいる選手たちがみんな僕を見つけるとかけよってくる。

「おめでとう!キチ」
「ドイツに勝つなんてすごいじゃない」
「ドイツが負けたのは残念だけど、堂安がゴールを決めたのはうれしいよ」
「今日は俺堂安ね。右サイドから切り込むから」
「それを言うならキチが堂安だろ?」

 ドイツというのは連邦制の国なのでそれぞれの州ごとに地域愛が強い。フライブルク地域で暮らすサッカー人にとっては、ドイツ代表の前にフライブルクの選手という見方がされるわけだ。ドイツ代表に選出されたマティアス・ギンターやクリスティアン・ギュンターを応援するのは当然のこと、日本代表だったら堂安律、そして韓国代表チョン・ウヨン、ガーナ代表ダニエル・コフィ・キエレにも深い愛情で声援を送っている。

 ブンデスリーガで大活躍している堂安は人気選手だし、そんな彼の活躍はフライブルクファンにとってはとても喜ばしいことなのだ。例えドイツ代表がそのために負けたとしても。

コーチと日本対ドイツ戦のサッカー談義に発展「ドイツにとって悪い試合だったわけじゃない」

 和やかな雰囲気でのトレーニングを終え、アシスタントコーチが運転する車で自宅まで送ってもらった。車内では週末の自分達の試合について話し合っていたけど、自然とテーマはまたしても日本対ドイツ戦へと戻る。

アシスタントコーチ(以降:コーチ)「ドイツにとって悪い試合だったわけじゃない。ボール保持率自体はそこまで重要ではないけど、ゲームの流れはつかめていたし、相手に攻撃の起点を作らせてもいなかった。1点目を挙げた後も好チャンスは多く作れていたし、2点目は時間の問題だと思っていたのに。堂安のゴールで流れが完全に変わった」

中野吉之伴(以降:中野)「いい試合だったというけどよかったのは70分頃まででしょ。でもサッカーは90分の試合だよ。終盤の失速はちょっと残念だったなぁ」

コーチ「シュロッターベックはフライブルク時代すごくよかったのに。身体を張った守備とか迫力があって相手FWを必死で食い止めるプレーを見て私も興奮したものだ。でもドルトムントに行ってクオリティが下がった気がしてしょうがない。あっさりと突破を許すシーンが多すぎる」

中野「日本にリズムが移りそうな時間帯だったから、あそこでゲームをコントロールできなかったかなぁ。あれだけ経験豊富な選手がたくさんいるのに」

コーチ「守備的なMFがいないと言うんだったら、ギンターをそこで起用すればいいんだ。今はCBだけど昔はボランチでプレーしていた選手で、今シーズンのパフォーマンスだったら、ほかのどの守備選手よりいいじゃないか。ギンターを起用して、あと終盤動きが消えてしまったラウムを下げてギュンターを入れていたら問題なかった。これは私がフライブルクファンだから言ってるんじゃないよ(苦笑)。本当にそう思うんだ」

 しばらくそんな感じでサッカー談義をしていたら車が僕の家に到着した。挨拶をして、降りようとする僕にコーチが笑って声をかける。

「キチ、今日は飲みすぎるなよ」

僕も笑って返す。

「今日飲まなくて、いつ飲むの?」

「そうだよな。いい酒を飲んでくれ」と笑顔で手を振ってコーチが帰っていく。彼らの祝福をありがたく受け止めながら、ドイツビールで1人祝杯を挙げた。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)