12月1日のグループステージ最終戦・スペイン戦に、カタール・ワールドカップ(W杯)の命運が託された日本代表。

 森保一監督は「今のベストを全てスペイン戦にぶつけたい」と気合を入れ直したが、酒井宏樹(浦和)は依然として別メニュー。11月27日のコスタリカ戦後には、中盤の要・遠藤航(シュツットガルト)も右膝痛で病院へ行ったという。

 検査の結果自体は問題なしだったが、28日の全体練習に合流しなかった。その遠藤と板倉滉(ボルシアMG)、山根視来(川崎)がイエローカードを1枚ずつもらっていることも含め、守備陣の陣容は本当に不安視される。

 それでも世界一のパスワークを誇るスペインを相手に守り倒さなければ、ベスト16進出は見えてこない。とりわけ、左SBのジョルディ・アルバ(バルセロナ)と、同サイドのFWダニ・オルモ(ライプツィヒ)の縦関係をどう封じるかは非常に大きなポイントだ。

 27日のドイツ戦を見ても、スペインは左寄りの攻めを多用。D・オルモが中に絞ってジョルディがタッチライン際を駆け上がり、2対1を作ってドイツ守備陣を攻略するシーンが数多く見られた。
 
 62分のアルバロ・モラタ(A・マドリー)の先制弾は、まさに象徴的なシーン。内側に入ったD・オルモが外を駆け上がったジョルディに展開。グラウンダーのクロスを供給し、モラタが右足で流し込んだ。

 彼らと対峙することになる右サイドの伊東純也(S・ランス)が「左サイドは相手のストロングポイントだと思います」と警戒心を露にしたほどだ。

 今の日本にとって厳しいのは、右SBの酒井が出られるかどうか分からないこと。マルセイユ時代にネイマールら世界的アタッカーとのマッチアップを繰り返し、駆け引きを身に着けている酒井がいてこそ、右サイドは盤石だった。

 本人も今回のW杯を集大成だと考えているだろうから、無理をして強行出場を志願するかもしれないが、酒井自身のキャリアと、ベスト8という大目標を視野に入れると、森保監督が決断できるかどうかは未知数だ。

【PHOTO】カタールW杯のスタンドを華麗に彩る“美しきサポーターたち”を厳選!
 酒井を起用できないとなれば、その場合は山根がバックアップにいるものの、高度な国際経験と1対1の守備力に秀でた長友佑都(FC東京)の抜擢が有力視される。6月のブラジル戦で右に入った長友は、ヴィニシウス・ジュニオール(R・マドリード)を徹底マークし、仕事らしい仕事をさせなかった実績があるからだ。

 もちろん親善試合で相手が本気モードでなかった部分もあるが、彼自身は「手応えを持てた試合」と強調。スペイン戦でも敵を封じる自信がある様子だった。

「僕の中では対策が明確にあるんですけど、戦術面のことはあまり言いたくないです。今はメディアを通して、世界レベルでそういうのが伝わるんで。向こうに情報を与えたくないというのが正直あります。いろんな選手とこれまで戦ってきたデータも自分の細胞の中にあるんで」と長友は自信を見せていた。

 ただ、36歳の大ベテランが右に回ると、左SBは伊藤洋輝(シュツットガルト)一択になる。W杯初出場となったコスタリカ戦で不安定なパフォーマンスを垣間見せた彼に、フェラン・トーレス(バルセロナ)とのマッチアップを託すのはどうしても不安が拭えない。

 こうしたなか、29日に冨安健洋(アーセナル)がようやく全体練習に合流。貴重な右SB要員を使える目途が立った。それは非常に大きな朗報と言っていいだろう。
 
「彼には本当に日本人離れしている守備範囲があると思うんで、まさにこういう相手には必要な選手。(今まで)休んでいたので、ちょっと仕事してもらいたいなと思います」と、堂安も冗談交じりで期待を示したのだ。

 確かに冨安なら世界トップクラスのアタッカーとのマッチアップに負けることはないし、2枚が攻め込んできた時も臨機応変に対応できる。そのクレバーさは酒井に勝るとも劣らない。本当に力強い戦力が戻ってきたのだ。

 そこで、1つ気になるのは、縦関係を形成する選手との連係だ。伊東とは9月のアメリカ戦(デュッセルドルフ)でほんのわずかな時間、トライしているが、息の合った連係を構築することはできなかった。

「自分がつかなきゃいけないところはハッキリついて、受け渡せるところは受け渡しでやりたい」と伊東も話したが、それを冨安とスムーズにできるかどうかが重要だ。


 問題はジョルディが上がってきた時。伊東がマークをしっかりと冨安に受け渡し、中に絞ったD・オルモを見るといったスムーズな対応が求められてくる。急造コンビに高度な連係を求めるのは酷だが、ここまできたらやってもらうしかない。

 伊東と冨安が良い距離感で守り、ボールを高い位置で取れれば、伊東が一気にハイラインの背後を突いて、タッチライン際を駆け上がることができる。ゴールにダイレクトに向かうプレーも出せるかもしれない。そういう意味でも、やはり日本の右サイドは生命線になると言っていい。

 日本が22%しかボールを持てなかったドイツに対して、6割以上のボールポゼッション率を記録したスペインの強さは本物だ。
 
「上手くてテクニカルなチームだとは思っていましたけど、その前に激しく厳しく、本当にそのなかで技術を発揮できる、お互いが連係・連動できるという世界最高のチーム。テレビを見ていてそう思いました」と森保監督も神妙な面持ちで語っていただけに、スーパーハードワークと、過去にない集中力で挑まなければ、活路は見出せない。

 酒井不在の今、冨安が背負うものは非常に大きい。今回は彼に賭けてみるのも一案ではないか。指揮官がチーム発足当初から手塩にかけて育ててきた若き才能の真価が問われるのは、まさに今。冨安中心にスペインの強力左サイドを完封し、日本の勝利を演出してほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)