●メッシが務めたノーマルな「偽9番」
FIFAワールドカップカタール2022グループC第3節・アルゼンチン代表対ポーランド代表が現地時間1日に行われ、2-0でアルゼンチン代表が勝利した。アルゼンチン代表はこれまでの2試合で試していなかったリオネル・メッシの「偽9番」を採用。バルセロナ時代とは異なる趣を見せながらも、アルゼンチン代表の攻撃を彩っている。(文:西部謙司)
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必勝を期すアルゼンチン代表は第2戦のメキシコ代表戦から4人を変更。第1戦と第2戦でも先発5人を入れ替えているので総力戦の様相だった。前線ではラウタロ・マルティネスが外れ、アンヘル・ディ・マリア、リオネル・メッシ、フリアン・アルバレスの3トップ構成。対するポーランド代表は4-4-2システムで慎重に守備を固める。
メッシはバルセロナ時代を思い出させる「偽9番」だが、かつてのそれとは少し趣が違う。
少し下がって前向きでボールを持つところまでは一緒だが、そこからの“ラッシュ”がない。ドリブルで突入していくのではなく、いったん捌いてからゴール前へ入って行く。下がってからドリブルでこじ開ける全盛期のスタイルのほうが例外的であって、引いて捌くほうが「偽9番」としてはスタンダードだ。ただ、それで成立させるにはメッシ以外のゴールゲッターが必要になる。
メッシが下がったときは、左ウイングのアルバレスが中へ入ってCFとなり、MFアレクシス・マック・アリステルもペナルティーエリア内へ入って行く。この2人が得点チャンスを決められるかどうかがポイントになった。
28分、エンソ・フェルナンデスの右からのクロスをアルバレスがシュートするがGKヴォイチェフ・シュチェスニーがセーブ。36分にもマクアリステルからのパスを2人のDFの間で受けて抜け出したアルバレスがシュートするが、これもシュチェスニーに素早い反応に阻まれる。
しかし、こぼれ球を拾ってからのハイクロスに反応したメッシとシュチェスニーが交錯し、メッシがヘディングした直後にシュチェスニーの手が顔に当たった。これでアルゼンチンにPKが与えられた。
ポーランドにはやや気の毒にも思える判定だったが、シュチェスニーはメッシのPKを読んでストップする。
43分、アルバアレスがカットインから狙うがGKシュチェスニーの正面をつく。ロスタイムにはメッシがラッシュを仕掛けるがあっさり奪われる。0-0で前半終了となった。
●全盛期ではないメッシがアルゼンチン代表で果たす役割
ポーランド代表のGKシュチェスニーの活躍に前半はゴールを割れなかったアルゼンチン代表だったが、46分にあっさり先制点をゲットする。右サイドでディ・マリアがキープし、右SBのモリーナがオーバーラップ、モリーナの低いクロスをマック・アリステルが合わせて逆サイドへ低いシュートを決めた。さほど強いシュートではなかったが、シュチェスニーの伸ばした手の先をぎりぎりで通過していてコースがよかった。
ディ・マリアのタメからのオーバーラップは攻め手の1つで、サイドで裏をとったことでポーランドのDFが後退し、その手前へ速いクロスボールを入れてマクアリステルをフリーにしている。
53分にはメッシが全盛期を思わせるラッシュからボックス内へ突入するが、シュートがほぼ空振りのミスキック。直後の裏抜けも2人のDFを振り切れず。
35歳となり、さすがのメッシも全盛期のパワーとスピードはない。一方で、右のハーフスペースから逆へ展開するパスや狭いスペースでの技巧は健在。得点を分散させる「偽9番」の役割は果たせているので、あとはチームメートしだいだ。
●容赦なく攻めるアルゼンチン代表にポーランド代表は…
リードしたアルゼンチン代表は、じっくりとパスを回しながら時間を使うモードに切り替える。ディ・マリア→パレデス、アクーニャ→タグリアフィコの交代でメッシとアルバレスの2トップに。
67分、アルバレスが2点目をゲットする。ゆっくりとポーランド代表の守備ブロックの外側を迂回するようにボールを回し、右から左ハーフスペースへ回したところでフェルナンデスが1人をかわしてボックス内のアルバレスの足下へつける。半身で受けたアルバレスは一歩中へ運んでマークを外し、寄せてきたもう1人のDFとの間を打ち抜いた。メッシの「偽9番」によって得点を期待されたアルバレス、マクアリステルがゴールしたわけだ。
2-0となってもポーランド代表はリスクを負った攻撃をしなかった。裏のメキシコ代表対サウジアラビア代表の経過が伝えられていたのだろう。このままならフェアプレーポイントの差で勝ち抜けられる。前回大会の日本代表と同じ立場である。奇しくもそのときに日本代表と試合をしていたポーランド代表はすでに敗退が決まっていたので、日本代表の暗黙の談合に応じたのだが、今回はアルゼンチンが容赦なく攻めてくる。
ポーランド代表は守備を固めて何とか失点せずに試合を終えた。メキシコ代表対サウジアラビア代表はサウジアラビア代表が1点を返したため、ポーランド代表は得失点差でグループリーグ2位通過となった。
一方的に攻められ続け、最後は反撃も諦めて運に賭けた。攻撃では何も示せなかった第3戦だったが、必死の守備でグループリーグ突破を成し遂げた。
(文:西部謙司)
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