ハビエル・デ・ペドロはレアル・ソシエダのレジェンドの1人だ。クラブ史においてロペス・ウファルテに次ぐ最高のレフティと位置付けられている。育成クラブとして名高いアンティグオコで本格的にサッカーを始め、そのプレーがスカウトの目に留まり、ソシエダのカンテラに加入した。93年にトップチームデビューを果たすと、翌シーズン以降、主力に定着。変幻自在のクロスを武器に、長年、ソシエダの攻撃を牽引し、左SBアグスティン・アランサバルとの縦のコンビ、セルビア人FWダルコ・コヴァチェビッチとの強力タンデムはチームの売りになった。

 スペイン代表の一員としての最大のハイライトは、日韓ワールドカップだ。チームが疑惑の判定で準々決勝敗退を余儀なくされた中で、MVP級の活躍を見せた。思ったことをすぐに口に出してしまうタイプで、その性格が原因で喧嘩別れのような形で04年にソシエダを退団。その後は、ブラックバーン、ペルージャ、ヨーテボリ、ペルージャ、ブルゴスなどクラブを転々とし、寂しい晩年を送った。曲がったことが嫌いな天才肌。インタビューの受け答えからも伺えるように、現役を引退してから15年が経過した今も、デ・ペドロはデ・ペドロのままだ。

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――今シーズンのソシエダをどう見ていますか?

「いいんじゃないかな。3つのコンペィションを戦わなければならない中で、よくやっている。ただまだまだ先は長い。ルイス・アラゴネスが口癖にしていたように、ラスト10試合を迎えるタイミングで好位置につけて、そこからが本当の勝負だ」

――チームの目標はどこに設定すべきでしょうか?

「今の戦いを続けること。ラ・リーガではトップ8をキープすることが重要になる。ソシエダにはそれだけのメンバーが揃っている。コパ(デル・レイ)はこれからだし、ヨーロッパリーグでは首位通過だ。ここまで素晴らしい戦いを見せている。これ以上望むことはない」

――アスレティック・ビルバオとのライバル関係について日本人のファンにどのように説明しますか?

「日本と韓国の関係に似ているんじゃないかな。最近は以前に比べ、随分ソフトになってきたけど、バスクサッカーの最高峰を決する試合であることに変わりはない。負ければ長い間、周囲のビルバオファンにいじられ、勝てば、楽しい気分になる。いたってシンプルさ」

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――クボ(久保建英)の獲得が決まった時の印象は?

「嬉しかったよ。クラブはヤヌザイの後釜を必要としていて、理想的な選手を獲得したからね。実力的にはもっとできるはずだったヤヌザイを上回るだろう。それは18歳でマドリーと契約した事実が物語っている。その後、ラ・リーガのチームを転々としていたけど、運がなかった。そんな中、サンセバスティアンという完璧な街とソシエダという完璧なチームに辿り着いたわけだ。

 スペイン語を信じられないほど流暢に話す。そのうち牛肉の炭火焼を食べにシドレリア(シドラ[リンゴ酒]の醸造所)に連れて行ってもらえるだろう。日本人が日頃、食べているようなステーキではない。断っておくが、私は日本の文化に心酔している。今日にでも日本を訪れたいよ。憧れの選手の1人がナカタ(中田英寿)だったしね」

――ここまで説得力のあるプレーを見せていると思いますか?

「素晴らしいの一言だ。強気な姿勢がいいよね。ドリブルがダイナミックで、シュートが上手くて、常に積極的で、仲間思いだ。しかもナイスガイだ。エゴイスティックなところがない。欲を言えば少し高さが足りないけど、これでサイズに恵まれていれば、今頃ミランのようなチームでプレーしているはずだ。ソシエダは彼にとって完璧なチームだ」

――クボの強みと課題は?

「ラ・リーガの基準から見ると、少し高さが足りない。でもそれを補ってあまりある大胆不敵さを持っている。フィジカルも見た目よりも強いしね。度胸があって、どんな状況でもどんな相手にも物怖じしない。素晴らしいよ。ダイナミックで、常に動きながらボールを要求し、ドリブルスキルに長け、年齢の割にクロスの精度も高い。それでいてエゴイスティックなところがない。語学の問題がないことも大きい。スペイン語のレベルは私より上かもしれない。私が勝っているのはスラングくらいだろう」

――ワールドカップでスペイン代表と対戦する日本代表についてどんな印象を持っていますか?

「今大会の注目のチームの一つだ。本気さ。スペインを敗退に追い込めるかどうかまでは分からないけどね。もちろんスペインに勝ってほしいけど、油断していると危ない。日本は力をつけている。ダークホースになれる。ラスト20分間、相手を窒息させるまで低調なプレーに終始したこの前のポルトガル戦のような試合をすれば、大変なことになる。ワールドカップは意味不明のネーションズリーグとは全く違うしね」

――クボ以外で知っている選手、スペインが警戒するべき選手は?

「日本の試合はよく見ているけれど、覚えにくい名前の選手ばかりなので、今すぐに挙げることはできない。でも日本がレベルの高いチームであることは断言できる。一つ一つのプレーを丁寧にしっかり取り組んでいる。とても規律正しい。日本を倒すのは一筋縄ではいかないだろう。スペインも苦労するはずだ」
 


――日本のサッカーは、近年、進化を遂げているということですか?

「韓国のサッカーと同じさ。まだまだひよっこと思っていたのが、私が出場した日韓ワードカップで4位に躍進した。大きく進化している。日本人選手はとても規律正しく、従順だ。油断していると危ない。私のお気に入りのチームの一つだ」

――スペイン代表のキーマンをワールカップひとり挙げるなら?

「難しい質問だな。私は、若手の熱量に期待している。彼らの積極的に取り組む姿勢が、チームを勢いづけるエネルギーになる。ペドリなんかはセンスの塊だ。友人とサッカーをしている感覚でプレーしながら、違いを生み出すことができる」

――スペインはワールドカップで優勝できる陣容?

「すでに1度優勝しているんだから、候補の一つには入るだろう。ただ今回のワールドカップは波乱含みの大会。油断は禁物だ」

――クボ以外で印象に残っている日本人選手は?

「セリエAだけど、ナカタには驚かされた。いつも礼儀正しく、試合中も文句を言わず、ジェスチャーも適切だった。素晴らしいよ。もちろん実力もすごかった。タケもその意味でナカタを彷彿させるところがある。規律正しく、強気で自信に溢れ、常に積極的に自分から仕掛ける。大きな成長を遂げている。18歳でマドリーと契約しただけのことはあるよ」
――日本を訪れた経験は?

「いいや、韓国やソウルに訪れたことはある。日韓ワールドカップでね。スペインは日本で試合をする機会に恵まれなかった。そうそう、日本が世界で最も雪が多い国というのは本当なのかい。今度タケに聞いてみてよ。世界一美味しい焼き牡蠣が食べられる街もあるそうじゃない。すごいよね。私はラーメンが大好物で、たまに家でも作っている。これが美味しいんだ」

――日韓ワールドカップの思い出は? あなたはスペイン代表でMVP級の働きを見せたと高い評価を受けました。

「この私がだよ。自分から口にすると聞こえは良くないけど、私だったんだ。4アシストを記録し、理想のイレブンにも選出された。でもスペインはアンラッキー以外の何物でもなかった。勝利を奪われた。優勝の機運が高まっていたのにね。強奪さ。しかも世界中の人々がその現場を目撃した」
 
――レイノー・ドゥヌエの時代には、もう少しのところでラ・リーガ優勝を逃しました。当時のソシエダはどんな特徴を持ったチームでしたか?

「目をつぶっていても、プレーできるくらいのレベルにあったよ。とにかく勝利への熱量がすごかった。味方の選手がタックルを受けると、6人の選手が主審を囲い込んで、ファウルを獲得したもんだ。1試合1試合、チーム一丸となって全力で戦っていた。0-2のビハインドから立て続けに4点を奪い、逆転勝利を収めた試合もあった。私たち自身も、現実のこととは思えないこともあった。ホペイロから控え選手まで、もう一つの家族といってよかった。結束力や一体感が強くて、本当の家族のようだった」

――かつてソシエダでプレーした韓国代表イ・チョンスはチーム溶け込んでいましたか?あなたは最も仲が良かった選手の1人でしたよね?

「私はチームメイトとふざけ合うだけでなく、面倒を見るのも好きだった。才能はあったよ。でもチャンスを掴めないまま終わった。彼の得意なところで起用されないというポジションの問題もあった。適性ポジションはトップ下で、裏抜けの技術も高かった。ただ当時のソシエダにはダルコ(コバチェビッチ)とニハトがいた。若くて度胸も才能も合って、左右両足から鋭いシュートを放つこともできた。でも運がなかった。

 当時のチームにはホセバ・ジョレンテ(後にバジャドリーやビジャレアルなどで活躍)もいた。彼もスペクタクルな選手だったけど、出番は限られていた。若い選手がポジション争いに割り込むには困難なチームだった。それが才能あったにもかかわらず、ソシエダで出場機会に恵まれなかった一番の理由だろう」

――いま何をしていますか?

「私はコーチだ。いろいろ活動しているよ。あるイタリアのクラブから対戦相手を分析するスカウティングのような仕事のオファーを受けている。今、交渉を行っているところで、条件面で折り合いがつけば、すぐに移り住む予定だ。過去に訪れたこともある。とてもいいところだ」

インタビュアー・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸