「いい意味でサプライズを起こそう」という野心が大きな力と一体感を生む

 カタール・ワールドカップ(W杯)が始まる前、ドイツ代表、スペイン代表と同じグループに入った日本代表が、最終的にグループ首位通過を果たすと想像した人は極めて少なかっただろう。しかも、最も力が落ちると見られたコスタリカ代表に敗れ、過去にW杯を制した実績のあるドイツとスペインの2強に勝利したのだから、世界が驚くのも無理はない。

 MF遠藤航(シュツットガルト)は、「なぜコスタリカに勝てなかったと、みんなに言われると思う。世界的にも日本がこのグループを1位で突破するとは思っていなかったし、世界を驚かせるというか、突破することでいい意味でサプライズを起こそうとみんなが思っていた。そういう思いが詰まったドイツ戦とスペイン戦だったと思う。これだけW杯に懸ける思いを持っている選手が集まっている。今はそれがいい方に出ていると思う」と、スペイン戦後に語った。

 実際に森保一監督が招集した26名は、チームのために身を粉にしている。サッカーのエースナンバーである10番を背負うMF南野拓実(ASモナコ)は、大会前に「プレーでチームを引っ張ることが、自分にできる一番の貢献」と語っていたが、スペイン戦では出場機会を与えられなかった。それでも「チームの勝利が一番」と、試合出場機会に向けて最善のコンディションを整えている。

 スペイン戦で、そうした選手たちの象徴となったのがDF谷口彰悟(川崎フロンターレ)だった。いきなりの先発、W杯デビューにもかかわらず、DF吉田麻也(シャルケ)、DF板倉滉(ボルシアMG)とともに堅固な最終ラインを形成し、試合後には「スペイン戦で勝ち点3を取って突破するというタスクをしっかり達成できて嬉しい」と、笑顔を見せた。

 ドイツ戦、スペイン戦でピッチに立った選手の中で、最も自己犠牲を払った選手の1人がMF久保建英(レアル・ソシエダ)だ。スペイン戦の前半だけでベンチに退いた久保は、「僕もコンディションは良かったしいいプレーをしていたと思うので、(前半での交代は)ドイツ戦よりも悔しかった」「今日の交代は予想していなかったので、個人的なことだけ言えば悔しかった。チームの戦術なので、前から行くならもっといいプレーをできたと思うし、ボールも足についていて取られる気はしなかった」と、個人的な思いも正直に明かした。

 そして、「プレスの仕方も変えて、前半から行っても良かったけど、『後半から行こう』という話をしていた。前半を捨てたような感じになったけど、最小限の失点で行けて良かった」と久保は言い、スペインにも疲労が出てくる後半に勝負をかけるチームのプランに沿ったプレーをしていたと話している。

 途中出場したFW浅野拓磨(ボーフム)も、「サッカーは90分で、11人だけじゃなくてベンチも含め、試合に出ない人も含めてサッカー。日本代表というチームの11人だけでない、全員の力があってこそのチームだと示せたと思う」と話し、「ドイツ戦、スペイン戦と後半で逆転した試合運びだけど、後半から出た選手だけが活躍したわけではない。前半からの選手、後半の選手、出ていない選手の全員がいてこの結果だと全員が思っている。世界もそうだけど、日本のサポーターにも、僕らがこういうチームだと示せていると思う」と胸を張った。

 26人の選手全員がチームの勝利を最優先に考えて、時には自分を犠牲にしても行動する。登録メンバーが過去最多の26名となった今大会、それができる選手たちを森保一監督は集め、総力で戦ったことが2つの大金星の呼び水になったことは間違いない。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)