サッカー日本代表が、カタールワールドカップで最大のサプライズチームになっている。ドイツ代表とスペイン代表を破ってのグループ首位突破を、世界中でどれほどの人が予想しただろうか。開幕前は、大会屈指の強豪2ヶ国と同居したグループからの勝ち上がりは難しいという見方がほとんどだったはずだ。

 決勝トーナメント進出をかけた1日のスペイン代表戦を前に、キャプテンのDF吉田麻也は4年前と比較しての日本代表の現状について問われ「強くなっていると思います」と言い切った。そして、次のように続ける。

「Jリーグが発足してから30年、間違いなく進化しているし、間違いなくレベルアップしている。森保(一)監督はドーハの悲劇を経験していますけど、そこでワールドカップに出られなかった時から、もっと言えばその前からどうやってワールドカップ出るのか、勝つのかを考えて今日までやってきたと思います。その一部に僕自身が関われていることをうれしく、責任も感じています。

ロシア大会でできなかったこと、その壁を越えて自分たちが見たことのない景色を見ようとしている。ただ、(日本サッカーが)進化しているのは間違いないですけど、他の国も成長している。その成長速度に自分たちがついていく、もしくは追い越していかないといけない。そのためにはこういう国際試合で結果を出すことが大事なんです。成長しているというのは、世界で結果を出してこそ言えることだと思います」

 日本代表はスペイン代表に勝った。前半に1点を先行されながら、後半開始とともに反撃に出て一気に逆転。ルイス・エンリケ監督が「5分間、完全にコントロールを失ってパニック状態の時間があった。その間に2点を決められ、さらに失点する可能性もあった」と驚くほどの勢いでスペイン代表から試合の主導権を奪ったのである。

 その後は防戦一方となったものの、日本代表はスペイン代表の猛攻をしのぎ切った。劣勢の時間が長くても世界屈指の強豪国と真剣勝負の場で渡り合えることを証明し、日本サッカー史上初の2大会連続グループステージ突破を果たした。

 途中出場してスペイン代表の左サイド攻撃を完全にシャットアウトしたDF冨安健洋は「プレミアリーグでやっているので、日常が出せたかなと思います。まあ、でももっともっとできると思います」と言ってのけた。何と頼もしいことか。

 逆転勝利の口火となる同点弾を決めたFW堂安律は、後半開始からの守備のやり方に「日常」を感じながらプレーしていたという。「多少センターバックに(プレスを)かけようと、チームとして話し合いました。フライブルクでもそういう守備の戦術をしているので、かなり助かっていました。フライブルクでの守備のやり方がちょっとハマったかなと思います」と、自らのプレーに確かな手応えがあったようだった。

 日本代表選手たちの「日常」のレベルは4年前のロシアワールドカップ当時から比べて確実に上がっている。当時は23人の本大会出場メンバーのうち15人だった海外組は、4年経った今大会は26人中19人に増えた。欧州1部リーグでのプレー経験を持つGK権田修一、DF長友佑都、DF酒井宏樹も含めれば海外経験者は22人にのぼる。

 イングランド・プレミアリーグやブンデスリーガ、ラ・リーガで活躍する日本代表選手たちは、ドイツ代表やスペイン代表のスターたちと日常的に対戦している。ないしはチームメイトに欧米列強の代表選手がいる環境だ。

 そうなればドイツ代表にもスペイン代表にも畏れを抱くことはない。むしろ自信を持って対峙できていたはずだ。欧州5大リーグに近いレベルのクラブ、あるいは欧州カップ戦に出場するクラブに所属している日本代表選手にも同じことが言えるだろう。

 ドイツ代表戦を前にした「ドイツ代表にはバイエルン・ミュンヘンほどクオリティはないし、バイエルンと今のドイツ代表なら間違いなくバイエルンの方が強い」というMF鎌田大地の発言にも説得力がある。

 かつては11人が一致団結して11人分以上の組織力を発揮することで、強豪国に対抗しようとしていた。だが、今の日本代表は1対1でワールドクラスの選手たちと互角以上に渡り合え、組織としてまとまればドイツ代表やスペイン代表を上回るパワーを発揮することができるようになってきている。

 当然ながら10回戦って10回、スペイン代表に勝てるわけではない。それでも若い頃から欧州でプレーし、世界基準を知る選手たちが増えたことで、日本代表に求められるプレーの基準も上がった。彼らは所属クラブでの「日常」を日本代表にも持ち込み、それをチーム力に還元している。

 森保一監督はグループステージ突破を決めた翌日の囲み取材の中で「こういうのはメディアの皆さんからたくさん発信して欲しい」と述べ、日本代表選手たちの「個」の成長が「組織」としての進歩にどのようにつながっているのかを説いた。

「後ろが1人余っていないと守れないという弱気な守備ではなく、『守備的になっていたとしても1対1で勝っていけるんだ』という自信を持って選手たちは戦ってくれているので、監督としても勇気を持って采配できます。

実際に選手たちの戦いを見ても、この3試合で個々のマッチアップで上回っていけている。攻撃でも守備でも数的優位を作って連係・連動していく部分において、選手たちは素晴らしい個の能力の向上を見せてくれていると思います。

組織力で戦うのは間違いなく日本の良さだと思いますけど、やはり個の1対1の局面で勝っていけるのに加えて数的優位を作れる連係・連動があり、さらに組織力が強くなっていく。このグループステージ3試合でもドイツ代表やスペイン代表、もちろんコスタリカ代表も含めて、世界の強豪国と個々でマッチアップして1対1でも勝っていけて、かつ組織力を生かしていくんだということを選手たちは表現してくれていると思います」

 グループステージのドイツ代表戦やスペイン代表戦のように、自陣に押し込まれる時間帯が長くなっても、最終的に個々が1対1の局面で負けなければチーム全体が大きく崩れることはない。今の日本代表選手たちにはその自信があるからこそ、「いい守備から、いい攻撃へ」という森保ジャパンのコンセプトが機能している。

 スペイン代表戦でのボール支配率17.7%は、ワールドカップで勝利したチームが記録した史上最低の数字だった。現代サッカーにおいてボール支配率はそれほど大きな意味を持たなくなってきているとはいえ、20%を切りながらも逆転できたのには理由がある。

 選手個々のクオリティでスペイン代表に引けを取らず、ベンチメンバーにも欧州のトップレベルで経験を積んだ信頼できる戦力が揃っているからだ。森保監督がワールドカップの大舞台でどっしりと構え、選手交代や大胆なシステム変更など「勇気を持って采配できる」のも、同じ理由だろう。

 吉田の「間違いなく進化している」という実感も、結果によって証明された。日本代表は、意思の統一がとれた11人が世界基準のクオリティをもって強豪国に立ち向かっていけるチームになった。21世紀に入ってからワールドカップ優勝経験を持つ2ヶ国に真っ向勝負で勝ったという成功体験は、日本代表選手たち、そして日本サッカー界の取り組みの確かさを裏づける最高の収穫となった。

 やはりドイツ代表やスペイン代表は、無意識レベルで極東の島国からやってきたFIFAランキング24位のチームを甘く見ていたのではなかろうか。口では「危険なチーム」とは言っていても、頭の片隅に過小評価があれば、それは慢心や過信につながる。

 今回のグループステージ突破によって、これからは日本代表への警戒がさらに強まるだろう。「ドイツ代表とスペイン代表を倒したチーム」として見られ、ラウンド16で対戦するクロアチア代表も厳戒態勢で試合に臨むはずだ。

 サムライブルーが目指す「新しい景色」、すなわちベスト8以上という目標を達成するにあたって、前回大会のファイナリストであるクロアチア代表は必ず越えなければならない壁になる。そこで改めて日本サッカーの本当の意味での成長やポテンシャルが測られることになるだろう。

(取材・文:舩木渉)

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