カタールW杯に来て初めて、スケジュールの都合でなかなか行けなかったアルゼンチン代表の取材に行った。

 現地時間12月3日、オーストラリア代表とのラウンド・オブ16。会場のアフメド・ビン・アリ・スタジアムがあるアル・リッファ・モール・オブ・カタール駅に着くと、アルゼンチン・サポーターが早くも歌声や歓声をこだましていた。

 サポーターが来ているユニホームは、ほとんどに「MESSI」と「10」がプリントされている。ロシアW杯の取材を思い出し「やっぱり4年前と同じだな」なんて考えていたが、よくよく見ると現地人も多い。今大会は1日2試合ペースで撮影に行っている知り合いのカメラマンは「メッシとロナウドの試合は観客が本当に多い。現地の人も含めてね。VIPも混んでるよ」と教えてくれた。

 そのリオネル・メッシは、4-3-3のCFが主戦場なものの実質的にはフリーロールで、中盤に下がって組み立てにも参加した。いつものスタイルだ。ただ、アルゼンチンはメッシも含めて「トラップ→探す→パスかドリブル」を繰り返すばかりで攻撃が加速せず、オーストラリアの守備ブロックをなかなか崩せない。

 しかし35分、均衡を破ったのはやはりメッシだった。右サイドからパスを捌いて中央に侵入し、得意の左足でコントロールショット。ボールは相手DFの股を抜けてサイドネットに吸い込まれていった。W杯通算得点は母国の英雄ディエゴ・マラドーナを超える9つ目、そして意外にもW杯決勝トーナメントでのゴールは自身初だった。



 メッシはその後もキレの良さを見せ、流石のフェイントやドリブルを披露。一気に相手3人をごぼう抜きするシーンもあった。スタンドからは「メッシ!」、「ワーオ!」という感嘆の声が飛んだ。

 ただ、個人的にそれ以上に感嘆したのが、その闘争心だった。4年前のロシアW杯におけるメッシは、どこか覇気を欠いていた。ボールロストすると天を仰いで嘆き、守備はまったくせず、失点すると肩を落としてうつむき、まるで自分の殻に閉じこもっているようにすら見えた。プライベートで何かあったのではないかと、心配になるほどに。

 しかし、今大会は違う。もちろん前田大然のような鬼プレスはしないし、大半の時間でいつも通り“お散歩”をしている。でも、ここぞの場面では闘争心むき出しでしっかり身体を張った。印象深いのが、33分のワンシーンだ。敵陣でアルゼンチンがボールロストすると、メッシがオーストラリアのDFアジズ・べヒッチに猛然とプレスしてタッチラインまで追い込み、マイボールに変えた。

 美しいゴールよりも、キレキレのドリブルよりも、あの鬼気迫るプレスに、メッシのフィジカル的な好調ぶり、そしてメンタル的な充実ぶりを感じた。

 最後は苦しみながらも2-1でなんとかオーストラリアを退けたアルゼンチンは、準々決勝に駒を進めた。メッシはすでに35歳で、世界制覇はさすがにラストチャンス。その悲願達成に向けて、神の子がいつも以上に燃えている。

取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)

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