日本のノックアウトステージの最初の相手が決まった。クロアチアだ。グループFを1勝2分の2位通過で抜け出した。総得点は4。スコアレスドローが2試合なので、得点力が弱く、日本は与し易いチームに思えるが、それはとんでもない間違いだ。
ではクロアチアとは、どんな国でどんなサッカーをするのだろうか?
W杯は7大会連続出場で最高成績は前回2018年ロシア大会の準優勝。それに次ぐ戦績は1998年フランス大会の3位がある。
旧ユーゴスラビアから独立の歴史を辿って1991年に独立したクロアチア。なので、それまでは当然ユーゴスラビア代表としてW杯に出場していた。今でも記憶に残っている1990年イタリア大会のオシム率いるユーゴスラビアは綺羅星のタレント軍団だった。「東欧のブラジル」と異名をとったユーゴスラビアは、足元のテクニックと長短合わせた小気味良いパスワークで、相手チームを恐怖に陥れるのに十分な実力の持ち主だった。
独立したとはいえ、クロアチアは「東欧のブラジル」の流れを汲むチーム。テクニックとサッカーの巧さで、存在感を放った選手の数は今まで両手では足りない。
ボバン、シューケル、コヴァチ、ヤルニ、ラキティッチなど。レアルやバルサ、ユベントス、ACミランなどのビッグクラブのレギュラーを常にクロアチアの選手が占めてきた。そして現代の筆頭がレアル・マドリーの10番を背負うルカ・モドリッチだ。
クロアチア代表はドイツ、スペイン、フランス、そしてイタリアやベルギー代表などに比べて、「地味なイメージ」が拭えない。トップグループを形成する国々の次に位置する、ポルトガル、オランダ、ポーランドのような第2グループの一つというようなイメージだ。
だが、それはあくまでイメージにしか過ぎない。クロアチアは彼らトップグループにはない「強さ」を持っている。それは、「スタイルを持たない強さ」とでも言うべきだろうか。堅守速攻、ボールポゼッション、速攻も遅攻も自分たちの手の内に持っている。どんなに格下相手にでも、「なめた試合」は展開しない。相手を観察し、相手の弱点を突き、相手よりも1点だけ上回ることを至上ミッションとする。それも「東欧のブラジル」と呼ばれる実力の持ち主達がそうするのだ。
現在の主軸はもちろんルカ・モドリッチ。彼のボールキープやドリブルの姿勢はあまりに美しく、まさに芸術品といっても良い。右足首の外側にボールを置き、身体をターンさせながら360度の視界をもってボールを散らし、運び、そしてゴール前に突き刺す。
モドリッチを取り巻くのが、コバチッチ、ペリシッチ、2ゴールを挙げたクラマリッチだ。また今大会最大の発見とも言えるのが若干20歳のグラバディオルだ。クロアチアがグループリーグ270分で1点しか献上していない堅牢な要塞を築けているのも、この若きCBが中央で冷静に危険の芽を摘み、シュートに身体を投げ出して、最終ラインで敵の攻撃をことごとく跳ね返しているからだ。
グループリーグでは強さしか感じられなかったクロアチア。ただもしかすると、彼らの敵は見える敵=日本代表ではなく、実は見えない敵=「疲れ」かもしれない。前線で躍動した選手達は平均29歳。モドリッチは37歳だ。日本戦では、厄介な伊東・堂安・三笘たち、アジアのスピードスターたちを94時間の休息しか与えなかった身体で対応しなくてはならないのだ。
したたかさでヨーロッパを勝ち抜いたクロアチア。変幻自在の戦いかたで勝利を手繰り寄せてきた実力派軍団クロアチア。日本がベスト8というまだ見ぬ未踏の地を夢見ているように、彼らクロアチアもW杯優勝という未踏の地に立つ夢を持っている。
文:橘高唯史
(ABEMA/FIFA ワールドカップ カタール 2022)