●勝ちに近かったのはクロアチア代表
サッカー日本代表は現地時間5日、FIFAワールドカップカタール2022ラウンド16でクロアチア代表と対戦。1-1で120分を終え、PK戦の末に敗退が決まった。お互いにチャンスを作ったものの、次第にクロアチア代表の圧力に押されていった。5-4-1の守備ブロックは一定の成果を見せた一方で、世界の舞台で戦うには弱点もあるようだ。(文:西部謙司)
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膠着したまま突入したPK戦、クロアチア代表のGKドミニク・リバコビッチが3本をストップしてクロアチア代表がPK3-1で勝利した。
どちらも決め手を欠いた120分間だったが、この日のフィールドで最も強力な選手だった三笘薫を生かし切れなかったのは日本代表としては悔いの残るところかもしれない。
5バックから4バックに変えて三笘のポジションを1つ上げれば、もう少し決定機は作れそうではあった。ただ、それは守備のリスクと引き換えになる。無理しても決着をつけにいくか、PK戦の運に任せるか、その判断について是非を問うのは難しい。
前半に日本代表が先行、後半も拮抗した内容ではあったが、どちらかといえばクロアチア代表のゲームだったと思う。日本代表の5-4-1のブロックが時間とともに後退するのはこれまでの試合と同じで、そこからカウンターに転ずるのは難しくなる。1トップがキープして起点になれればカウンターへ持っていけそうな場面もヨシュコ・グバルディオルを中心としたDFに抑え込まれていた。そうなるとフィールドを縦断する三笘のドリブルぐらいしか活路を見いだせないのも同じであった。
クロアチア代表は押し込んだ状態から明確にハイクロスに勝負をかけていた。後半に投入したCFアンテ・ブディミルを延長後半にマルコ・リバヤに交代させ、ロングスローを投げ入れて高さで押し切ろうとしていた。日本代表にとっては前回大会のベルギー代表戦と似た展開になったが、今回は1失点に抑え、延長も無失点で切り抜けていて、この点は進歩したといえるかもしれない。
ただ、ハイプレスを仕掛ける状況を作れずに後退し、カウンターの糸口がなく、高さで圧力をかけられていたので、勝ちに近かったのはクロアチア代表のほうだった。
●日本代表式「5-4-1」の弱点
前半は43分の前田大然のゴールによって1-0で試合を折り返した。クロアチア代表はとくに日本代表対策を講じている様子はなく普通に攻めてきた。ルカ・モドリッチ、マテオ・コバチッチ、マルセロ・ブロゾビッチのMFトリオはさすがの支配力でボールは保持されるが、そのぶん日本代表にもカウンターのチャンスはあり、ショートCKからの谷口彰悟のヘッド、伊東純也のアーリークロスと惜しいチャンスがあった。
押し気味のクロアチア代表も3回の決定機に近いチャンスを作るが、41分に前田大然と守田英正が左サイドで粘って打開し、遠藤航の巧妙なパスで抜け出した鎌田大地が切り返しで1人外して放ったシュートはここまでで最も大きなチャンスだった。このシュートは枠をとらえられなかったが、43分にショートCKから前田が先制して今大会初めて先制する。
しかし、後半10分にクロアチア代表がイバン・ペリシッチのヘディングで同点に。5-4-1ブロックの外側からのハイクロスだった。
日本代表の守備はブロック内ではマークを受け渡しながらゾーンを埋め、相手とボールを追い出すやり方。そのため、受け渡しで一時的に相手がフリーになることがあり、失点場面もブロック内には入られていないがボールホルダーへ寄せきれる距離で対応できていない。スペイン代表戦での失点とよく似ていた。
●安定感と引き換えに失ったもの
試合が振り出しに戻ったところで、先に動いたのはクロアチア代表だった。長身FWブディミルを投入してボックス内の圧力を強めた。先発のブルーノ・ペトコビッチとタイプは同じなのだが、よりフレッシュな選手に代えたわけだ。
森保一監督が動いたのは64分、定番の長友佑都→三笘、前田→浅野拓磨の交代。さらに75分には鎌田を代えて酒井宏樹。酒井は右ウイングバックに入り、伊東が左のサイドハーフにスイッチする。そして87分には堂安律を南野拓実に交代、これで伊東は再び右サイドへ。しかし、三笘は左ウイングバックのままで、相手陣内で勝負をかけたのは1回だけ。日本代表に決定機はなく、クロアチア代表はモドリッチとペリシッチに際どいミドルシュートがあった。
延長に突入すると、クロアチア代表はモドリッチ、コバチッチを下げて運動量低下を防ぎつつ、より高さ勝負に的を絞る。延長15分、三笘が自陣から一気にドリブルで運んで強烈なミドルで狙うがGKに防がれる。延長後半には三笘が自らの持ち出しもあって、ようやく敵陣でプレーするようになるが回数は限られていた。5-4-1ブロックの安定感と引き換えに日本代表は攻め手を見いだせないまま120分間の激闘を終えた。
PK戦は4人のうち3人が決めたクロアチア代表に対して、日本代表は3人が止められ、5人目のキッカーが蹴らないまま敗退となった。止められた南野、三笘、吉田のキックは3本ともサイドへ低く置きに行く感じだったのをGKリバコビッチの鋭い反応でストップ。少し余裕がない感じもあったが、PK戦はどちらに転ぶかわからないもの。その前に決着をつけられなかったので仕方がない。
“良い守備から良い攻撃”が今回の日本代表の一貫した方針だった。しかし、この試合では後半から守備をする場所が低すぎて良い攻撃に結びつけられる可能性が低かった。守備を攻撃に結びつけるものがなく、押し込まれた時点で勝機の薄い流れになってしまっていた。
(文:西部謙司)
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