■PK戦の経験が豊富だったクロアチア

【FIFA ワールドカップ カタール 2022・決勝トーナメント1回戦】日本1(PK1-3)1クロアチア(日本時間12月6日/アルジャノブ スタジアム)

【映像】世界最高の“PKストッパー”を超分析

“新しい景色”を見ることはできなかった。

森保一監督が率いてきた日本代表はラウンド16で、クロアチアにPK戦で敗れベスト8を逃した。4年前のロシア大会では試合終了間際にベルギーに決勝点を決められたが、今回はPK戦までも連れ込んだ。紙一重だったのは間違いない。

しかし、クロアチア側からすると、延長戦で勝ちに行きながらも、PK戦になったとしても自信を持って臨める理由があったようだ。

クロアチアの正GKとして君臨するドミニク・リバコビッチは日本代表のサポーターが多く陣取るゴール裏を背にしながら、1人目のキッカーである南野拓実、2人目の三笘薫、4人目の吉田麻也によるPKを完璧な読みと反応で止めてみせた。

思い返せば準優勝した前回大会で、3試合続けて延長戦という経験をしているクロアチアはラウンド16でデンマーク、準々決勝で開催国だったロシアにPK戦で勝利しているが、当時はスバシッチというGKがゴールマウスを守っていた。しかし、リバコビッチも前回も控えGKとして入っており、成功体験を共有していた。

■“世界最強クラス”のPKストッパー

そんなリバコビッチはこれまで数多くのPKセーブを記録してきた選手で、ことPKにかけては“世界最強クラス”とも言える。クロアチアにとって幸運だったのは、チームの守護神が、そのままPK戦で最も頼りになるGKであったことだ。

1人目の南野に対してはキックにシンクロするように左に倒れて、上半身で止めた。ややコースが甘かったが、左右に動いて揺さぶりをかけるGKが多い中で、リバコビッチは両腕をだらりと下げながらギリギリまで見極めて、南野のモーションにシンクロするように反応して倒れている。

2人目の三笘に対してもキックとほぼ同時に反応して、そこにボールがくるのが完璧に分かっているかのように、右腕を伸ばして止めてみせた。南野のキックは方向さえ間違わなければ止められるかもしれないが、この三笘のキックは方向が読めていても、なかなか止めるのは難しいコースだった。

3人目の浅野拓磨にはGKから見て左側に決められたが、4人目では吉田のキックも完璧なタイミングで右に飛んで止めている。キックのギリギリまで微動だにせず、ジャストのタイミングを見計らっていたこと。これらを考えると、蓄積されたPKストップの自信と経験に裏打ちされているように見える。

■タイミングを外すキックが通用しない理由

PKに対するGKの止め方としては、シュートを打たれる前に飛ぶ方向を決めておく、もしくは打たれるまで動かずに蹴るまで見るという大きく2パターンがある。

飛ぶ方向を決めていると、キックの前に体が動いてしまいやすい。しかし、リバコビッチはキックの瞬間まで全く動かなかった。両手を左右に広げるなどの動作をしないのも、キッカー側に予備動作として読ませないためのものかもしれない。

GKのタイミングを外して正面を蹴る選手や、コロコロPKと呼ばれる、GKの逆をついて決めるタイプのキッカーもいるが、リバコビッチを相手にすれば、それは通用しない可能性が高いだろう。

おそらく読めていてもリバコビッチが届かないのは左右の上隅だけ。ただし、PKでそこに狙って蹴るのは正確な技術プラス、よほど勇気がある選手だけだろう。PKストッパーとしては、メキシコのギジェルモ・オチョアが有名だが、それ以上と言えるかもしれない。

準々決勝から先でもPK戦があるかもしれない。その時に日本戦と同じパターンで行くのか、違った対応を見せるのか。また延長戦になれば、試合終了が近づくにつれて、相手に少なからずプレッシャーになりそうだ。

文・河治良幸

写真・Getty Images