日本代表のカタールワールドカップが終了した。現地時間5日、ラウンド16でクロアチア代表と90分間で決着がつかない熱戦の末、PK戦で敗退したのだ。目標としたベスト8以上には到達できなかったが、成果は大きかった。見えてきた足りないもの、今後に活かせる材料を、ベテランサッカージャーナリストの大住良之と後藤健生が徹底的に語り尽くした。
■追いかけるより先回りを
――ピッチ上の戦い方もそうなんですが、日本サッカー協会はJapan‘s Way(ジャパンズ・ウェイ)も打ち出していましたが、最近聞かなくなりましたね。
大住「あれはサッカーへの取り組み方という側面が強かったよね。世界に追いつくとか、世界の潮流を追うとかではなくて、世界のサッカーが向かっていく流れをとらえつつ、それを先回りしないと、決してワールドカップで上位に行くことはできないし、ましてや優勝なんてできないよね。ヨーロッパはこういうサッカーだからこうやらなきゃじゃなくて、これからのサッカーをどういう方向に行かせるのか、潮流を自分たちでつくっていく、くらいの独創性と発想の転換が必要なんじゃないかな」
後藤「今大会で分かったのは、選手の能力はまだ一流国にはかなわないけど、非常にチームの一体感が強かった。そこは日本らしいということ。メンバーやシステムを変更しても、皆すぐに対応して、忠実にこなそうとしていた。先発でも控えでも選手の考え方が一致しているといった面は、やはりジャパンズ・ウェイなんじゃない。日本人の良さだと思いますけどね」
大住「もうひとつ思ったのは、日本は大きな国だなということ。人材的なリソースが非常に豊かだと思う。他の国を見ても。例えばクロアチアなんて中盤の3人のうち2人が抜けたらまったく違うチームになって、同じ質のサッカーはできないんだよね。いろいろな国がそうだったと思うけど、日本は代わって入った選手の個性を活かして、また違うサッカーをできる。人材は豊富だよ。クロアチアとの試合では、堂安律が本当に素晴らしかったと思う。非常に堂々とプレーしていたし、判断に誤りがなかった。そういう選手がどんどんこれから増えていけばいいと思う。そういう人材はいくらでもいるような気がする」
後藤「今回のチームは東京オリンピック世代がたくさん入って、かつてなく若いチームだった。散々保守的だと言われた森保一監督だったけれども、やっていくうちにどんどんメンバーが変わってこれだけ若いチームができた。世の中にはいまだに大ベテランに頼っている国もあるのに、これだけ若い選手を使って良いチームをつくったというのは、日本サッカーの底力のひとつだね」
■若い選手たちの可能性
――飛び抜けた個性にも出てきてほしいです。
後藤「三笘薫のドリブルは、どのチームを相手にしても通用しそうだよ」
大住「個性のある選手が増えてきている気がするよね。それぞれの武器を持っている選手たちがいる。例えば田中碧なんて、今大会はあまり良くなかったけれど、もっと伸びるはずの選手だし、国際的にも認められる選手になるだけのパスのセンスなどの能力を持っていると思うんだよね。次のワールドカップであれば、もっと若い世代の選手が入ってくる可能性があるし。現在のU-20とかU-18から、また新しい個性が入ってくるんじゃないかな。それを森保監督のように経験も含めて融合させていく人物こそが代表監督にふさわしいと思うな」
後藤「今のU-17の世代だと、大柄なFWもいるからね。本格的なCFタイプが、4年後には出てくるかもしれないし」
大住「それに、もっと早くから成長してほしいな」
後藤「今は若いうちからどんどんヨーロッパのクラブに行くからね。今回の日本代表のワールドカップは成功だったと言っていいだろうし、これで日本選手の評価は間違いなく上がるだろうから、さらに高いレベルのクラブに大勢行ってほしいよね。各国の代表チームのレベルを測る時に目安となるのはやはり所属クラブで、強豪国はバルセロナだとかリバプールだとかパリサンジェルマンといったチャンピオンズリーグ優候補の選手がぞろぞろいるもんね。日本も10年後くらいにそうなれば、実力で真っ向から戦って勝負できる時代が来るかもしれない。間違いなく若い世代には良い選手がいるんだから、これからもちゃんと努力していけばそうなれるし、もっと良くなっていくと思いますよ」
■生まれた新しい基準
――ベスト8への距離は、遠くないと考えていいですか。
後藤「今回もまた、半分は手をかけたわけだからね」
大住「ここを突破するのは本当に大変だよ。メキシコは7大会連続でグループ突破してラウンド16で負けていて、今回はグループ敗退。でも、次はベスト4に行くかもしれない。やはり本当の力をつけないと、ここは越えられないんだよ。ただ、クロアチアに負けてがっかりしているということは、真剣に皆がベスト8を目指すようになったんだよね。就任時に森保監督はベスト8以上が目標だと言ったんだけど、信じた人はどれくらいいたんだろう。僕自身は、実はちょっととどうかなと思ったんだけど、今回のように条件がそろえば行けない場所じゃないと分かった。こういうことを繰り返すうちに、常にワールドカップで堂々と勝負できるようになればいい」
後藤「2大会連続でラウンド16で惜しい試合を経験して、もっと若い次の世代の選手にはこれが基準になるし、そこで勝つのが具体的な目標になる。そうやって積み上げて、いつかはもっと上に行けるようになるといいよね。昔はワールドカップに出るのが夢だったわけでしょ。いろいろ積み重ねがあって、もうベスト8まで手が届くところまで来たんだよ」