【専門家の目|佐藤寿人】「どれだけ日常にサッカーを見る環境が作られていくか」

 森保一監督率いる日本代表は、現地時間12月5日のカタール・ワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦でクロアチア代表と対戦。1-1の同点で延長戦を終え、PK戦の末に1-3で敗退した。元日本代表FW佐藤寿人氏は、日本サッカーがさらに前へと進むための“日常”について語っている。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 日本のW杯は、決勝トーナメント1回戦でのPK戦敗退という形で幕を閉じた。ドイツ代表とスペイン代表を破るなど、着実に前進していることを示した一方、2002年、10年、18年に続きベスト8の壁に跳ね返されたことも事実だ。

 カタールW杯で現地を訪れ、各国のリアルな姿を見てきた佐藤氏は、18年ロシア大会の第3戦ポーランド戦(0-1)で、1点ビハインドの日本がパス回しをして時間を消費した出来事に言及。国内で賛否を呼んだことを例に、日本の“日常”がまだ世界トップレベルには追い付いていないことを指摘した。

「W杯で優勝していたり、上にいる国はそれがもう当たり前のことなんです。でも、まだまだ日本サッカー界にはそういう目線がない。でも、あのままの結果でグループリーグを突破できるのなら、どれだけリスクをかけるべきなのか。

 本当に日常のところで、例えばお父さんが子供に『なんで日本は負けてるのに攻めに行かないの?』と聞かれた時に、すぐ説明できるようになると、また変わっていくのかなと思います。どれだけ日常にサッカーを見る環境が作られていくか。日常で見ていないのに、その場面で切り取って言っても、理解がないなかでの言葉になってしまう。そこがまだ圧倒的に差のある部分なのかなと思います」

 サッカー強豪国と日本には、そう簡単には越えられない歴史の違いが横たわっている。しかし、それでも越えていくための努力なくして、本当の意味で“新しい景色”を見ることはかなわないのかもしれない。佐藤氏は日本サッカー協会も含めての取り組みが必要だと指摘する。

「日本代表として2050年までにW杯を獲るとサッカー協会が掲げている以上は、もっともっと“見る側”の人たちを巻き込んでいくっていうことも必要です。日々の積み重ねで歴史が作られていく。だからこそ、日常が大事になっていくのかなと感じます。W杯の時だけ盛り上がって、また4年後盛り上がる。その繰り返しだけだと、いつまでも差は埋まらないんじゃないかと感じています」

 ドイツとスペインを破り、日本国内に与えたインパクトでは過去大会と比較しても最高レベルだったことは間違いない。「今回、これだけ素晴らしい戦いを選手たちが見せてくれたことによって、本当にたくさんのW杯に関する会話が、普段サッカーを見ない人のなかでも出てきていたと思います」と佐藤氏。カタール大会は日本サッカー界の“変化”のきっかけとなるだろうか。(FOOTBALL ZONE編集部)