カタールW杯で優勝したアルゼンチンの左サイドバックは、ニコラス・タグリアフィコとマルコス・アクーニャだ。リオネル・スカローニ監督は3バックも採用し、その場合はリサンドロ・マルティネスが左CBで起用された。

 フランスの左サイドバックは、リュカとテオのエルナンデス兄弟が務めた。グループステージ3節のチュニジア戦と決勝戦では、MFが本職のエドゥルド・カマヴィンガが4バックの左サイドで起用された。

 ここまで名前をあげた6人の選手に、共通するものは何か。

 全員が左利きなのである。

 カタールW杯で上位まで勝ち上がったチームには、ほぼもれなく左利きのサイドバックがいる。

 3位のクロアチアは、ボルナ・ソサが4バックの左サイドを務めた。日本とのラウンド16で先発したボルナ・バリシッチもレフティーだ。

 4位のモロッコは、右サイドが本職のヌサイル・マズラウィに左SBを任せた。右サイドにはパリSG所属のアクラフ・ハキミがいるためで、今夏にアヤックスからバイエルンへ移籍した21歳が左サイドへスライドした。だからといって、左利きの左SBがいないわけではない。マズラウィの負傷欠場を埋めたヤヒア・アティヤット・アッラーは、左利きのプレーヤーだ。

 準々決勝でフランスに敗れたイングランドでは、ルーク・ショーが左サイドで存在感を発揮していた。ポルトガルの左SBは、ラファエル・ゲレイロだ。彼らもレフティーである。

 3バックを採用していたオランダも、左サイドには左利きの選手が起用されている。左SBのナタン・アケ、左ウイングバックのデイリー・ブリンドだ。

■日本代表では長年、長友佑都が担ってきた

 ブラジルはアレックス・サンドロが「6番」を着けていた。“セレソン”は背番号がポジションを指すことが多く、W杯代表ではブランコ、ロベルト・カルロス、マルセロ、フィリペ・ルイスらが6番を着けてきた。いずれも左SBの選手である。

 今大会ではアレックス・サンドロとアレックス・テレスがグループステージで左SBを任されたが、ラウンドと16準々決勝ではダニーロが先発した。アレックス・サンドロとアレックス・テレスが同時にケガをしてしまったのが理由で、右SBが本職のダニーロが起用された。

 ブラジルの左サイドは、ビニシウス・ジュニオールのエリアだ。インサイドハーフのネイマールも、頻繁に左サイドへ流れてくる。質的優位に立つ彼らなら、1対2の局面でもすり抜けられる。相手に止められたとしても、直接FKを得ることもできる。左SBの攻撃参加は、マストではない。むしろ、ボランチとの関係でビニシウス・ジュニオールやネイマールの守備の負担を減らし、守備時のリスク管理をしておくことを、チッチ監督はダニーロに求めたのだろう。

 ひるがえって日本である。

 日本代表の左SBは、2010年W杯から長友佑都が務めてきた。彼は左利きではないが、縦へ抜け出しての左足クロスがスムーズだった。

 しかし、近年は縦へ抜け出す回数が減っていた。左足のクロスが相手守備陣を混乱させることは少なく、右足へ持ち直してのクロスが増えていった。

 W杯アジア最終予選では、長友が先発して中山雄太が途中出場するのがパターンとなった。中山はCBやボランチを主戦場としてきた選手だが、このチームのDFでは希少な左利きだった。試合を重ねるごとに攻撃参加もこなすようになっていたものの、メンバー発表後のケガでカタールW杯出場を逃すことになった。

■山中、車屋、菅、そして旗手も定着できなかった

 中山に代わる左SB候補は、いなかったのか。

 森保監督のもとでは、佐々木翔、山中亮輔、車屋紳太郎、菅大輝、古賀太陽、安西幸輝らが、左SBでの起用を見越して招集された。複数ポジションでの起用が想定された旗手怜央も、左SBのバックアッパーに数えることができただろう。しかし、代表チームに定着する選手は現われなかった。

 J1はもちろんJ2まで見渡しても、左利きの左SBは多くない。世界のトップ・オブ・トップとの比較で、決定的に足りないもののひとつだろう。

 左利きのSBに限らず、左利きの選手はそもそも少数派だ。貴重な左利きの選手をSBで使うのは、指導する側からするともったいないのかもしれない。

 そのうえで言えば、左利きの左SBをどうやって日本代表レベルへ押し上げていくのかは、W杯のベスト8入りにも関わる。もっと真剣に向き合うべきテーマだと思うのだ。