「おいおい、なんか着せられたぞ」
リオネル・メッシがワールドカップを掲げる歴史的シーンの直前。ルサイル・スタジアムの記者席に座っていた自分の眼前には、突如として異様な光景が広がった。
現地時間12月18日のカタールW杯決勝は、アルゼンチン代表がフランス代表を激闘の末に撃破(延長を含む120分を戦って3-3、PK戦が4-2)。メッシが5回目の挑戦にしてついに世界最高のトロフィーが掲げることになった。
にもかかわらず、トロフィーリストの直前にプレゼンターを務めたFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長、開催国カタールのタミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ首長は、メッシに“アラブの慣習”と押し付けた。「ビシュト」と呼ばれる半透明の黒いローブを着させたのだ。アラブ世界では結婚式や儀式の際に身に着ける伝統的な衣装で、この日もカタール首長が着ていたものだ。
W杯史上初の中東開催をアピールしたかったのだろうが、アルゼンチン人のサッカー選手であるメッシには明らかに相応しくない。グローバリゼーションが叫ばれ、文化の共有・共感が進んでいる昨今だが、「ビシュト姿のメッシ」を喜んだのはおそらくカタール王族だけで、彼らのエゴでしかないだろう。
実際、記者席ではクエスチョンマークが広がっていたし、サッカーダイジェスト特派カメラマンによればピッチで撮影していたカメラマンたちからは不平不満の声が飛び交っていたという。「kidding me ?」や「Oh my god !」、「what’s ?」に加え、「f*ck you !」、「f*ck off !」という汚い言葉も何度も聞こえてきたそうだ。
メッシがワールドカップ・トロフィーをリフトするシーンは、間違いなくサッカー史に永遠に刻まれるメモリアルな瞬間だ。カメラマンたちにとっては一世一代の大勝負の場であり、ユニホーム姿による最高のシチュエーションが望まれた。世界中のサッカーファンも同じ想いだっただろう。
にもかかわらず、メッシはカタールから押し付けられた謎のローブ姿でワールドカップ・トロフィーをリフト。写真のエモさや重みは明らかに半減し、実際に『ワールドサッカーダイジェスト』誌の増刊『カタールW杯総集編』では違うシーンの写真が表紙に採用された。
カタールのエゴ、そして彼らの言いなりとなったFIFAの判断には、呆れてものも言えない。
取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)
【W杯PHOTO】ワールドクラスの美女サポーターずらり! スタジアムを華やかに彩る麗しきファン厳選ショット!