2022年の自殺者数は2万1843人だった。この数は氷山の一角に過ぎない。自殺未遂者の数は推計で53万5000人と言われている。一命を取り留めたものの、身体障害を負う人もいる。朝倉慶子さん(29歳)もその一人だ。
【映像】リアルすぎる…看護師が漫画で描いた自殺未遂の“その後”(画像あり)
朝倉さんには生理前に心身の不安定状態が続くとされる、月経前不快気分障害があった。抗うつ気分が強く、意識がもうろうとする中、去年8月、飛び降り自殺を図った。
ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した朝倉さんはこう振り返る。
「高校の頃から漠然と『消えてなくなりたい』という気持ちがあった。具体的に強く『死にたい』と思ったわけではないが、疲れたときや月経前に、感情のコントロールがきかなくなって『自分がここに居ていいのか』と疑問を持った。自己肯定感がすごく低くなって『消えたいな』と思った。自分じゃない何かに乗っ取られて、行動を起こしてしまったような感じだ」
病院に運ばれた朝倉さんの意識が戻ったのは、2日後のことだった。
「すごい痛みで目が覚めた。どこにいるか、まずこっちの世界なのか、もう亡くなっているのかも分からなかった。ただ、人の声や機械の音で『病院にいるんだな』と分かった」
怪我の様子はどうだったのか。
「右足は開放骨折と言って、骨が飛び出た状態だった。傷が残っているが、肉を繋ぎ止めてもらった感じだ。踵はボルトなどで形成してもらって、何とか足の形になった。肺の後ろあたりがグチャっとなっていたのと、腰椎、腰あたりが損傷した。脊髄損傷で下半身は動かない」
それでも入院直後、朝倉さんが書いた日記には「あんなに死にたくてとんだのに、生きててよかった」と記されていた。
「そう思えたのは、家族にもう一回会えたから。自殺未遂をして生きていた私がいることによって、障害でつらい人に何か支えになる言葉を伝えたい。今は生きていて良かったとすごく思う」
朝倉さんの母親は「命があってくれた、ましてや手が動いて話ができるというのは、本当にありがたいこと」と話す。
当時の自分にどのような言葉をかけたいか。朝倉さんは「とにかく休んでほしい。何もしなくていいから、布団にくるまって、何もしないでとにかく休んで、その場を乗り切ってほしい」と答える。
自殺未遂前は「一人でやらなきゃ」「自立した生活をしなきゃ」と両親から離れて生きていこうという気持ちが強かった。
「事故のあとは『こんなに愛されているんだ』とわかった。自分も両親が大好きなんだと知って、関係性は近くなった」
■「上司からの暴言が…」統合失調症を発症、体験を絵本に
近年、自殺を防ぐ手法として、注目されているのが「パパゲーノ効果」だ。自殺を思いとどまった人が経験を伝えることで、抑止に繋がるという。
自らの体験を絵本にまとめて発信している、かけるんさんも「パパゲーノ効果」を実践する一人だ。
「職場の上司から暴言を受けて、幻聴や幻覚が繰り返し見えるようになった」
23年前に統合失調症を発症し、包丁で人を刺す幻覚を見るようになったかけるんさん(48歳)。「いつか、本当に人を殺してしまうのではないか」と、自ら命を絶つことを考えたが、頭に浮かんだのは家族や友人の顔だった。
「親が悲しむと思って、踏み留まったところは大きい。特に統合失調症などの病気を患うと、人が離れて行ってしまうことがよくある。それにもかかわらず、同級生の友人は離れなかった。死ねないと思った」
人とのつながりを実感し、人生に希望を持つことができたかけるんさん。昨年、自身の経験を1冊の絵本にし、飛べない鳥を主人公に、心の病と向き合う様子を表現した。
「死ななかったら、前向きになれると伝えたかった。外をお散歩するだけで気分が良くなることもある。そこで小さな花を見つけて、ちょっとした幸せを感じたり、そんなことで『やっぱり生きていこう』と思えるようになるときもある。苦しいときはそれから逃れることも手だと思う。例えば、自分が苦しくなったときはトイレに逃げるようにしている」
パパゲーノ効果は、メディアの報道に限らず、自身と似た境遇の小説やドラマの登場人物に自分を投影させることで、立ち直れる場合もあるという。
「朝倉さんや自分が体験談を話すことによって『生きていても大丈夫』と思う方が増えてほしい。『パパゲーノ効果』が学者さんにも立証されるよう、期待している」
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「自殺未遂をした人に社会がどう向き合っていくのか、問われている」と話す。
「出生率が減っているにも関わらず、2022年の子どもの自殺者は512人で過去最多を記録した。これまで自殺で亡くなった人に対しては、社会は注目をしてきたし、対策も進めてきた。一方で、未遂で終わった人、『死にたい』という気持ちを抱えて実際に行動を取ったが、結果として亡くならなかった人に対しては、完全に埋もれている。やっと診療報酬の改定も始まったが、それでもまだまだ支援は進んでいない」
その上で、大空氏は「死にたい気持ちを想起させるような報道は、やるべきじゃないと思う」とメディアに警鐘を鳴らす。
「2022年の自殺は『メディアが増やした』と僕は言い切れると思う。芸能人の自殺で、非常に過激な報道があって、実際に増えた。これを二度と起こさないために、どうするべきか。WHOの自殺報道ガイドラインがあるが、相談窓口の電話番号を下にペロっと書くだけだ。それが“免罪符”になって終わっている。相談窓口は相談がくればくるほど、負担が増えていく。そしてそれでお金がもらえるわけじゃない」
「メディアが“免罪符”としてやっていることが、実はさらにセーフティネットを逼迫させている。この循環を変えるために、例えば相談窓口と合わせて『窓口は寄付によって成り立っています』と書いてほしい。メディアの影響力はものすごく大きい。これをぜひメディアには自覚していただきたい」
(「ABEMA Prime」より)
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