心ない批判に葛藤「障害児は生まれてきてはいけないのか?」 3人とも先天性の代謝異常症・10代で死別…産み育てた母親に聞く
【映像】紺野さんの下に産まれた3人の子ども
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 茨城県那珂市にある「重症児デイサービス kokoro」。生活の全てに介助が必要な子どもやコミュニケーションが困難な知的障害など、重症児を専門に預かる施設だ。利用する子どもは約30人。ある母親は「産んだ時には葛藤があって、どうすれば?というのが大きかった。だけどここに来たらみんな明るいママたちで、『普通の子育てだよ』と言われて吹っ切れた。助けてくれる人がいるのは本当に大きい」と話す。親たちにとって、24時間付きっきりの介助生活から束の間の休息が取れるだけでなく、心の拠り所にもなっている。

【映像】紺野さんの下に産まれた3人の子ども

 6年前に施設を立ち上げた紺野昌代さん。3人の子どもの母親でもあるが、全員が先天性の代謝異常症で、生まれつき自ら話すことも呼吸することもままならない重症児だった。有効な治療法もない状態だったが、「命をかけて産んだ子たち。障害があって、ハンデを持って生まれてきても、絶対に人生を楽しませる自信があった」。

 そんな思いから、親同士の情報交換も兼ねて、子どもとの生活をブログに投稿。しかし、コメント欄には「3人も障害児を産むなんて」「1人目が障害の段階で2人目を産まないだろ」「税金の無駄遣い」などの心無い言葉があったという。

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 『障害児は生まれてきてはいけないのか?』。自問自答を繰り返した紺野さん。その結果、たどり着いたのが福祉施設の立ち上げだった。「障害を持つ子どもたちも当たり前に、普通に生活ができる、そんな世の中にするために。子どもたちが心地よい人生を歩めるような地域を自分で作り上げていこうと思った」。

 そんな中、突然のことだった。施設の完成を控えた2014年、長男・星矢くんが亡くなった。さらに2020年には、長女・蘭愛(れな)ちゃん、二男・愛聖(まなと)くんがその命を終えた。3人とも10代だった。

「3人ともとにかくママッ子だった。なによりもママが好き。この笑顔にいっぱい救われてきて、その笑顔で『ママ楽しかったよ』と言ってくれているのではないかなと思う」

 障害を持つ子どもを産み育てること、その意味について、26日の『ABEMA Prime』で紺野さんとともに考えた。

■「この子たちがいなければ私の人生はなかった」

 3人の子どもについて、紺野さんはこう話す。

「長男はお腹の中では異常がなかった。順調に育って、生まれて初めて病気がわかった。私は看護師だが、その頃は小児や障害児とは無縁の世界にいて、なんの覚悟もないまま、真っ暗なトンネルの中に迷い込んだ感覚だった。2人目は、先天性の代謝異常症が遺伝するかはその時の医学ではわからず、“また同じ病気の子が生まれるかも”という思いはあったが、長男にきょうだいを作ってあげたかった。3人目を授かった時も“もしかしたら…”という不安が消えることはなかったが、宿った命をおろすことは全く考えられなかった。お腹の中で病気がわかったにしても産む選択肢をしていたと思う」

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 順天堂大学大学院の村山圭教授によると、先天性の代謝異常症は、新陳代謝やエネルギー産生の代謝が機能しなくなる病態のこと。両親双方の「遺伝子異変」による可能性が高いとされ、妊娠中に調べることはできない。また異常がある子どもが生まれる確率は、4分の1で、これは何度出産しても変わらないという。疑いのある子どもが生まれた場合、現在は強く親の遺伝子検査を勧めるということだ。紺野さんの出産は2000年から2006年。村山教授は、一般論として「当時は分からないことも多く、検査はそこまで勧めていなかったのでは?」と推察する。

 紺野さんは「調べたにしても病名が確定診断されていなかったので、病気はわからないだろうと言われていた。夫と話し合いをして、“調べない”という方向で出産に挑んだ」と明かす。

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 出産後、医師からは「長い命ではないと思う」とも聞かされている。「あまり長く生きられない、話もできない、歩けないということは言われていた。ただ、子どもってわからない。医学上のものを覆してくれたり、それ以上に頑張って生きてくれる子もいる。短命であっても子どもが生き切ったと思うところまで、私は伴走していこうという思いでいた。苦しかったけれども、すごく楽しかった」。

 子どもたちの存在が支えにもなっていたという。「障害児を育てるというのは、本当に綺麗事ではない。可愛いけれど、苦しくなる時もある。でも、笑顔を見ると“クヨクヨしてられない”“なんでこんなことで悩んでるんだろう”と救ってもらった部分が大きい。この子たちがいなければ今の私の人生はなかったと思っている」と語った。

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 制度アナリストで2児の父でもある宇佐美典也氏は「障害をケアしているからこそ技術や研究が進むし、私たちのセーフティーネットが広がっていく。産む・産まないの判断は親がすべきだと思うが、その上で産んでくれた人にはすごく感謝しなければいけない。『お金の無駄だ』なんて言う人もいるけど、“お前もいつか障害を持つかもしれない”“最後のラインを守っているのはお前たちが悪口を言ってる紺野さんたちなんだぞ”と。そういう社会であるべきだと思う」との見方を示した。

 紺野さんは「社会の目は冷たい。車椅子の子どもを押しながら街に出ると、子どもは物珍しさから近寄ってきて、『この機械何?』『なんでこの子は歩けないの?』と言うが、親が『そんなこと言わないの』『近寄らないの』と連れて行く。そういう姿を見ると、まだまだ理解が足りないなと感じる」と話す。

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 デイサービスを運営する上で、どのような課題を感じているか。「医学の進歩や在宅で使える機器の高度化もあって、地域で暮らせる子どもたちは増えている。一方で、まだ社会の受け皿は少なく、私たちのように日中預かりをするデイサービスも足りてはいない。障害を抱えた子どもが亡くなってしまうと、お母さんたちはみんな『自分も死にたい』と言う。また例えば親が亡くなった後も、その子らしく生活ができるような体制にしていくべきだ。働く側の報酬やマンパワーなどの問題が改善されていけば、お子さんたちが地域で生きられる世の中になっていくと思う」と投げかけた。(『ABEMA Prime』より)

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