■進む高齢化、無国籍のまま迎える最期

 クラウドファンディングで初来日を実現したサムエルさんに、新たな動きがあった。親類と名乗り出たアカヒジ性をルーツに持つ人たちの協力で、多くの証拠が見つかったとして、裁判所に日本国籍回復の申請を行なうことができたのだ。

 その報告も兼ねたテレビ電話で、来日以来、半年ぶりに顔を合わせた。サムエルさんの子や孫なども参加した。そして2024年11月、サムエルさんの日本国籍の取得が認められた。

 一方で、国籍回復の支援を続けるフィリピン日系人リーガルサポートセンターの猪俣典弘代表ら支援者たちは、「戦後80年の節目が最後のチャンス」と感じている。

 在ダバオ日本国総領事館の石川義久総領事は3年前の赴任以降、この問題を最優先事項として残留日本人との積極的な面会を続けている。「フィリピン残留日系人の方々、大変筆舌に尽くしがたい苦しみを経験されてきて戦後は終わっていないことを実感する思いです。少しでも国籍回復につながる、手掛かりがつかめるような支援をしていきたい」。

【写真・画像】「捨てられた日本人」フィリピンで暮らす残留日本人の訴え “無国籍”のまま最期を迎える人も 7枚目
拡大する

カンバ・ロサリナさん

 この日、猪俣氏と石川氏がともに向かった先は、93歳のカンバ・ロサリナさんの元。ロサリナさんの洗礼の記録には父親が日本人であるとことが記されているが、進展がないまま20年以上の月日が流れた。

 「(日本にいる親戚に)神様が許してくれるなら会いたい」。肉体は衰えゆこうとも、「神庭(かんば)ロサリナ」の名で国籍を回復し、父のことをもっと知るために、いつの日か日本へ。

身元判明につながる手がかりを求めて
この記事の写真をみる(8枚)