■ロシア軍支配地域からの脱出

【写真・画像】「捨てられた日本人」戦後80年 日本国籍を求めてさまよう“同胞”を追って 6枚目
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ロシア軍支配地域からスーミィへ

 支配地域からロシア経由で脱出するウクライナ人がいる。かつて複数あった国境検問所は、侵攻後、閉鎖された。だが、スーミィ州に唯一、通過できるポイントがあった。支配地域にあった家や土地を捨て、ウクライナ側にやってくるのだ。ロシア国境警備当局の尋問を経て、国境を越えてきた住民たちは、ほとんどが高齢者だ。

 この日、ロシア軍の支配地域から逃れてきたばかりの夫婦に出会った。アナトリーさん(66)とイリーナさん(64)夫婦は、ヘルソン州のロシア軍支配地域から逃れてきた。

「私たちは2年間 春を待ちました。春が来れば解放される、次の秋にはと願っていましたが 実現しませんでした。だから そこ(支配地域)に留まるのは難しいと思い至ったのです」(イリーナさん)

 脱出を手助けするウクライナの支援団体の情報をたよりに、ロシア国内を経由して国境を越えた。ヘルソンの自宅にもう戻ることはない。支配地域での生活は、ロシアの身分証がないとガスや電気が使えず、病院も受け付けてくれなかった。夫のアナトリーさんは生きるため、ロシアの身分証を取得した。「(身分証を取得し)私は自分の魂に罪を背負った気持ちになりました」。

 2人は43年前に結婚。へルソン州で、息子と娘、その家族と暮らしていた。一家は、アゾフ海のそばで小さな民宿を営んでいたが、ロシア軍の侵攻ですべてが変わった。

戦死兵士の遺族の苦悩
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