■30年間「レプリカ」を作り続ける職人
レプリカ職人の和久田優子さん
京都市内で、およそ30年間に渡りレプリカを作り続けるレプリカ職人の和久田優子さん(61)。「樹脂成形の資材とか、文化財の修復もやっているので、修復の資料とか。並行しながらやっていて、レプリカはそのひとつだ」と説明する。
広島市の委託を受けて、これまでに30点近い被爆遺品のレプリカを手掛けてきた。この日、取り掛かっていたのは遺品の「懐中時計」だ。実物は、周りを覆うベゼルの部分が金属だったが、レプリカは耐久性などを考え樹脂で成形し、酸化しづらい錫箔を貼った。
和久田さんは、懐中時計に触れて「ここに段がついているので、もしかしたらパカっと開ける。ここにヒンジがついていて、開けて時計を見て、また蓋を閉めて懐にしまうみたいな。そういうものだったんじゃないかな」と想像する。
原爆の衝撃でついたであろう傷や汚れは、絵の具を塗り重ねることで、「実物」を忠実に再現する。
和久田さんは芸術大学を卒業し、京都市内の会社で仏像や人形といった文化財の修復を行っていた。そこで担当した仕事の1つが、遺品のレプリカづくりだった。しかし3年前、部署が閉鎖した。会社に残る選択肢もあったが、独立を決断した。
「20年ぐらい前には、私が定年になるころには3D技術がもっと進んでいるだろう、人間がレプリカを作る時代は終わりが来るだろうと言われていた。でも今実際それが製品になるかと言えばできないし、布製品なんてそもそも樹脂で作るなんて無理なので」(和久田さん)
1つの遺品が完成するまで、数カ月から半年程度かかるという。
代表的な遺品「懐中時計」に“ある事件”が…
