■「災害伝承の崖」資金難の中、新たな伝承への挑戦
悲劇を繰り返さないため続けられてきた震災伝承。今、岐路に立たされている。菊池さんは、所属する防災支援団体のメンバーとともに新たな語り部活動に挑むことにした。それがSNSによる発信だ。菊池さんの語りを音楽とともにおよそ1分の短い動画で紹介する新たな形のソーシャル伝承メディア「kotonoha(ことのは)」。2026年3月11日から配信開始となった。
「子育て中の人でも1分なら見てくれるかなとか。介護中だったりとか。それから自分が外に出ることが叶わない障害がある方も見ることができる。学ぶ機会が一つ増える。知りたいなと思うことを知るチャンスになるんじゃないかなというのがあって、今回チャレンジしてみたいなと思った」(菊池さん)
3.11メモリアルネットワークの調査では、被災3県の震災学習プログラム実施団体のうち96パーセントが今後の活動継続に不安があると答えた。また、3年後の人材確保については7割以上が「見通しがついていない」「分からない」と回答。運営・活動資金についても、半数以上が同様の答えだった。
アンケートには伝承を続けることへの不安が記されている。「いつまでも手弁当的に震災伝承することは無理」「施設の老朽化や人材確保において、現在よりも資金が必要になってくる」。
釘子さんの語り部としての2025年の収入は、講演会などを入れてもおよそ20万円。ピーク時の10分の1ほどだ。震災伝承の先細りが懸念される中、状況はさらに厳しさを増している。
3.11メモリアルネットワークの中川政治専務理事は「私たちは『災害伝承の崖』と表現をしているが、3月31日で(公的支援が)全部なくなってしまうんじゃないか」と危機感を募らせる。
2025年度末の第2期復興・創生期間終了に伴い、復興関連の助成金は規模の縮小が見込まれている。例えば、一部が伝承団体の支援に活用されてきた「心の復興」事業について、復興庁は原発事故があった福島県は継続する一方、岩手県と宮城県は打ち切ることを決めている。
2012年の災害対策基本法の改正に伴い、国や自治体の努力義務として伝承活動の支援が明記されている。
「個人の方が無理をして、私財を削って、そこを手当てしてやっとできている。そもそも続けようがない体制だったりする」(中川専務理事)
伝承団体「閖上の記憶」は、運営費のおよそ3分の1を助成金で賄っている。丹野さんは「正直運営は決して楽ではない。助成金を使わせいただいていることも事実だし、ここに足を運んでいただいた方々にお気持ちを頂戴して運営をしているのが現実。なかなか自分たちの足だけで立ち上がる自立運営は現実的には厳しい状態」と明かす。
佐藤准教授は「復興に関する施策は、永年的に継続することは出来ない。(伝承活動も)持続可能性を獲得しなければならないが、支援がない中でどうやってこれから継続できるか、あり方も考えながら変化していく必要もある」と指摘する。
2026年2月、菊池さんは「kotonoha」のスタートに向けて撮影に臨んだ。運営費はスポンサーを集めるほか、クラウドファンディングで募る。
「中学生だった時、私はこの場所で地震に遭いました。地震に遭ったあと35分後にこの町は津波に飲まれました。必死に逃げました。それからたくさんの人たちが周りに見えました。みんなと一緒に生きたいと思いました。でも津波が来た時、私は一気に自分のことしか考えられなくなるような、そんな体験もしました。今私が生きているのはたくさんの方々のおかげだと感じています。一人ひとりが自分の命を大切にして、そして災害が起きる前から備えられるよう一生懸命語っていきたいと思っています」(菊池さん 「kotonoha」の動画より)
「逃げることだけが命を守る」15年目の語り部たちの願い
