■国境の島が下した決断と日米共同訓練
2025年8月19日、与那国町長選は告示を迎え、台湾とつながることで与那国を守り、発展することを目指してきた田里氏の戦いも幕が開けた。
「町長という立場でなければ、町長の権限を駆使してでなければ、住民は守れない」(田里氏)
一方の糸数氏も支持者に見送られながら選挙事務所を後にし、実績をアピール。上地氏も軍事よりも生活の安定をと訴えて回った。
8月23日の選挙戦最終日。各候補は最後の訴えに走り回っていた。
「国防は皆さんに説明しながら進めると、上地町長としてやってくれると信じて」(与那国町議会議員)
上地氏の陣営には自衛隊強化に慎重な議員が合流し、糸数町政の刷新を訴えた。
現職の糸数氏は支持者への最後の訴えで巻き返しを図る。「わたくしは背骨がまっすぐです。ぐらついておりません。極端に左にも右にも折れ曲がっておりません」。
そして、田里氏。自立ビジョンで強調してきた、国境の島に住民が住み続けることが安全保障になると声を張った。「町民が住み続けることで安全保障。これ以上の自衛隊の強化は認めません。ミサイルは絶対認めません。国がやっていることが何でも正しいんじゃない。正しいのはそこに住んでいる人。住民が一番正しい」。
投票率は90.83%。町民の関心は高かった。
開票所に詰める関係者から田里陣営に連絡が入る。「状態悪いですね。上地が350。糸数が300。田里はまだ50しか積んでいない」「50?」「届きません。残念ですけど」。
結果は上地常夫氏が557票で初当選を決めた。他の陣営からは勝利を知らせる爆竹の音が響く。田里氏は「大変申し訳ございません。島の状況をたくさん訴えたつもりでございますが、結果が結果として本当に残念」と頭を下げる。妻の鳴子氏は「どうか引き続きよろしくお願いいたします。すーや、あらーぐ、ふがらっさ(本日は誠にありがとうございました)」と与那国方言を交え挨拶した。
現職の糸数氏は再選を果たせなかった。「町民の意思として受け止めるほかない。ありがとうございました」。
「(Q.『(国会に対して)一戦を交える覚悟』などの発言の批判が影響したのでは?)それはわかりません。わかりませんけれども、発言を撤回するつもりは毛頭ない」(糸数氏)
勝利に沸くのは上地氏の陣営。そこには外間元町長の姿も。自衛隊配備当時の町長だが、部隊増強は慎重姿勢だ。「(防衛問題を)議会含め地域の皆さんの了解を得ながらやるというので、本人の手腕をみてみたい。日米共同訓練だけはやめてもらいたい。それとミサイル(配備)は何とかやめてもらいたい」(外間元町長)
選挙から一夜明けて、当選した上地氏がカメラの前に現れた。質問は9月に予定されていた日米共同訓練にも及ぶ。
「自衛隊は与那国で痛い思いをしている。来ない方がいいですよね。オスプレイとかね。防衛省は、説明をしました。それで実施しますという流れ。私がその場でやめてくださいと言って止まるかというと、私は止まらないとは思っています。ただ、私の政治スタンスは町民にちゃんとオープンにするということ」(上地氏)
町民は「町長として、米軍共同訓練をやめてくれと意思表示を町民のために出していただきたい」と訴える。別の町民は「僕ら住民の中でも、ミサイル基地を誘致する話が一番怖くて、ちょっとやりすぎじゃないのと。狙われるじゃないですか。僕らは島の周辺だけを守ってくれるだけでいいんですよ」と不安を口にする。また、ある町民は「島を守るというのも大事だと思いますよ。診療所がなくなる、老人ホームがなくなったという問題の方が優先しなくちゃいけないのかなと」と話した。
国家の防壁として扱われる島、住民の未来は
